第14話 野犬の魔物


 食事をとり終わりった後、トゥナに洗い物を任せ空いた時間を使い、彼女が町を出る前に買った二振りの剣をメンテすることにした。──ここなら、水も豊富にある……今のうちに研磨をしておこう?


「鑑定!」


 スキル発動の言葉と共に、手に持っている剣に数字が浮かび上がる。


【鉄の剣(中サイズ)】


攻撃力180=180


耐久度25/25


『なし』


 鋳造ちゅうぞう※1製品だろうか……二本ともこれといった特徴も無いな……。両方とも同じ能力値……量産品で同じ製作者に作られた証だろう。


 鉄を打つ鍛造たんぞう※2より強度も攻撃力も低いようだ。前見たものより能力が劣る。


 なるほど……。これを見て分かることが一つあった。

 この世界の技術には鉄を溶かし、それを型に入れて鉄製品を生産できる技術があると言うことだ。──となると骸炭コークスもあるって事か……何をするにしても、都合がいいな……。


 考え事をしながらも、いつものように砥石を湿らせ剣を研いでいく。

新品で買ったものなのに刃の付き方が非常に悪いな……作りの問題であろうか?

 まぁこう言った西洋式の剣は、鈍器の用な使用目的で使うことが主だってどこかで聞いたことがある、おそらくはその為だろう。──しかしそれは、集団戦に置ける対人使用の考え方だと思うんだけどな……。


 研磨をすると、刃の付きが悪いとは言え、徐々に武器の攻撃力が上がっていくのが鑑定眼越しにわかる……。──毎回思うが、鑑定眼……すごいな……。これだけで楽しくなるぞ!


「ねぇねぇ! カナデ! それボクの無銘にはしないのカナ? シュッシュッってしないのカナ!」


 バックの中からミコが顔を覗かせ俺の作業をマジマジと見て、なにやら興奮しているようだ。──別に君のじゃないからね?


「無銘にはもうやってあるんだよ。これ以上やると刃が減って良くないの!」


 後ろでぶぅぶぅとクレームを言う、ミコとのやり取りを見て焚き火の反対側にいるトゥナが、可愛らしい笑顔で微笑んでいる。


──その時だ! 不意にトゥナが立ち上がり「カナデ君、剣を貸して」と口にした……。


 明らかに先程までとは緊張感が違う。雰囲気を察するに魔物だろうか?──それにしても、彼女は本当に目や耳がいいな……。


 彼女に研いだばかりの一振を渡すと「カナデ君は火の近くに居て! 魔物は火を嫌うから!」と、ここから少し川下の目の届くぐらいの場所に向かい走っていった……。


 ウオォォォ! と言う獣独特の遠吠えと共に、何匹かの野犬の様な魔物とトゥナが交戦を始めたようだ。前方からは生き物の悲鳴が夜の空に木霊する……。


 その最中、俺はもう一本の剣を研ぐことにした。戦闘は完全に彼女任せである。


 何度も言うが、俺はよっぽどの事がない限り自ら刀は抜かない! 例え戦闘を、女の子一人に任せたとしてもだ。

 それに、この程度の相手なら彼女一人でも十分大丈夫だろう。


 遠目にそれだけ確認して、俺は再度もう一振りの剣の研磨を始めた。


 こっちの世界に来て数日立つけど、全然鎚を振れてないな……こんなに恋しくなるとは……と、考えながらも作業に没頭する。


 魔物の鳴き声と悲鳴をバックミュージックに作業ってのも、精神的に中々キツいものがあるな……。


 そんなことを考えていると、突如「──カナデ君!一匹そっち逃げた!」と、トゥナの焦ったような大声がした。


 視線をあげると目と鼻の先に、大口を開けた野犬型の魔物が、俺に向かって襲い掛かって来ていたのだ……。──むぅ……完全に相手に先手を取られた状況だな……。


「カナデ君!」


 トゥナの心配の声を他所に、ほぼ音もなく野犬の姿をした魔物が真っ二つとなって地面に伏した。


 相手の後手に回ったとしても、その上で相手を斬り伏せる……。それを追求した剣術が抜刀術である。例えそれが、座っている不利な状態だとしても……。


 俺は立ち上がり刀を振り、血を飛ばした。その後、拭い紙で血と油をぬぐい刃こぼれが無いことを確認して鞘に納めた。──また……斬ってしまったか……。


「相変わらず、えげつ無い攻撃カナ……」と、バックから声がしたけど、気にしないことにしてその場に座り作業に戻った。


 その後少しすると、トゥナが野犬の魔物を三匹ほど引きずって戻ってきた。──美少女が血まみれの野犬を引きずる様はちょっと考え深いものがあるな……。


「ごめんね、カナデ君…まさかそっち逃げると思わなくて」


 きっと野犬の魔物も、戦っていた相手が途中で恐ろしくなってしまったのだろう……。 苦手であろう火を恐れもしないでこっちに襲いかかってくるとか……。 目の前の光景を見ると、その気持ちよくわかるぞ……ワンコロ。


「別に問題ないよ」と、彼女が今使っていた剣を預かり、血と油を拭き取り観察する。


 よし! こちらもほとんど刃こぼれはないな。


 二振りの剣に、錆び止めの油塗りなどの簡単なメンテナンスをして、それを彼女に返した。


「本当……カナデ君の剣術も異常だけど、鉄の刃ででここまで綺麗に斬れるのも異常ね……」


 俺が斬り伏せた魔物の断面を見てトゥナが小声で口にした。──それっ誉められてるのか? 異常、異常って……。俺なんか剣術も鍛冶の技術も、じいちゃんの足元にも及ばないんだけどな……。


 いつの間にか大人しくなっている、マジックバックの番人の様子をうかがうと「カナデのスパンッ! こわいカナ……頭の上でスパンッ! て、スパンッ! て……」と口にしている。


 こっちは謎のトラウマが蘇ったらしいな……可愛そうに~、ミコ震えてるな? よほど怖かったのだろうな……? あの時、真っ二つにならなくて良かったね?


 この後、美少女トゥナによる魔物の解体ショーが始まり、各部素材をマジックバックに入れて、内臓などの使えない部分を穴を掘って埋めた。


 彼女が言うに「これが冒険者のマナーだからね?」と、ご指導を頂くことに。──衛生面を考えると火葬した方がいいとも思うけど……まだ世界的にそう言った文化がないようだ。


 その光景を見てしみじみ思う。──それにしても……冒険者って大変なのね……。


 結局のところ、町の中ぐらいしかゆっくり出来る場所がないんだな……。そんな町で生活する為に、危険な外にでて稼がないといけないんだから……世知辛いぜまったく……。

 

 そんな事をしみじみ感じながら、この後も交代で寝ずの番を行うのであった。

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