第10話 スパンッ!

「交渉成立かな? よろしくね、カナデ君」


 少々名残惜しいが、握った彼女の手を離しながら「あぁ、こちらこそよろしくな」と、あいさつをする。


 召喚の事や聖剣の秘密を抱えて、それを秘密にしている事に、若干の負い目は感じているが……生活の為だ致し方ない! 今より安定した収入が見込めそうだし、その魅力には抗えないのだよ!


 そんな風に、今後の彼女との冒険に胸を膨らませている……その時だ。


「もう、さっきから五月蝿いんじゃないカナ?全然ねつけないモン……」


 俺の道具袋の中で寝ていたミコが起きたらしく、ソコから顔を出してしまったのだ……。


 パーティー結成三十秒足らずで、俺が抱えている一番ヤバそうな秘密が漏れてしまった瞬間だ……。


「お~!お前、勝手に出てくるなって教えただろ!」


 宿の自室ににいるとき、大事になるから人前に勝手に現れるなと散々注意したのだ。


「──お前じゃ無いカナ! ミコだモン!」


 それだけ言うミコが、道具袋から飛び出してくる。──こいつ、隠れる気零だろ? 全然、隠蔽いんぺいする気ないだろ!


「そう言う事じゃなくて、そもそも寝るなら無銘に戻れよ! なんで道具袋の方にいるんだよ!」


「ユサユサがいい感じだったカナ! イイじゃないカナ!」


「よくないわ!」


 不味い……完全にトゥナに見られた……これで、今の水面下でのギリギリ生活ともおさらばして、貯金をこつこつ貯めようと思ってたのに……。これは、早速パーティー解散の危機じゃないのか?


 で、でもココは異世界だ……。精霊の一匹や二匹、何も珍しくはないとか……そういう感じのは…。


「カ、カナデ君? な、何それ……」


 トゥナはミコを指差し、明らかに動揺しながら俺に問いかけてきた……。──指先震えてるよ……やっぱり珍しいですよね……。


「ソレとか言うなシ! ミコはミコなのカナ! 前は聖剣に住んでたけど、今は無銘の精霊ミコなんだモン!」


 ミコさん言っちまったよ! しまったな……口を塞ぐのを完全に遅れてしまった……。


「カナデ君……」と俺に事情を説明するように、求めるような視線を向けてきた……。


 先程の約束もあって、口には出さない様だけど……。目は口ほどにものを言うとはこの事なのか……。ばれてしまった以上、隠し通す事は出来ないよな……?


「いやね? 城にある聖剣の事は知ってるか?」


「うん……グローリア城に保管されている、勇者様が使ってた聖剣の事よね?」


 へぇ~……あの城は、グローリア城って言うのか……。

 それにしても、やっぱり有名な話なんだな……勇者様のお話だもんな、そりゃそうだよな。


「それで理由は分からないが、城に呼ばれてこの刀をそこのやつらにバカにされたんだよ」


 俺の声に耳を傾け真剣に話を聞くトゥナ。──流石にこの先を話したら引くよな……気乗りはしないが、仕方ない……。


 俺は可能な限りの笑顔で微笑みながら「だから聖剣をバレないようにコッソリ斬った」と出来る限り爽やかに言葉にした。


「え……?」


それを聞かされたトゥナは、訳が分からないという顔をして絶句した。──あぁ……やっぱりそういう反応になるよね……?


「スパンッ! とねスパンッ! と、アレは見事だったカナ!」


 俺達の間に割りこむように会話に入るミコ……。彼女があの時の状況を説明しながら斬ったポーズを再現する。──あれ?そう言えばこいつよく見えたな……。


「そんでもって……。はい、コレその中身」


ミコを持ち上げ、トゥナにはいっと手渡した。


「これじゃないシ!ミコカナ! 失礼カナ!」


 威厳のない精霊様が、トゥナの手のひらの上でプンプンと怒っている……まるでプンプンって聞こえそうなほど……。


「プンプンカナ!」


──言うのかよ……。


「あのね? カナデ君の指名手配の理由……どう考えても、それでしょ?」


 やっぱりそう思うよね? しかし、その可能性は限りなく低いんだよ……。


「いやぁ、バレてないと思うぞ? その後、普通に城を追い出されたし。バレてたら普通、何かしらの罪で捕まるだろ?」


 ん~……容疑者として指名手配された可能性もあるけど、あいつら俺のステータスを確認してたからな……。普通なら不可能と思うはずだけど……。


「バレて無いと思うカナ? 昨日の朝、アイツらまた勇者召喚しようとして剣がグラグラして、聖剣がポキンってして責任の擦り付け合いしてたモン。ほら?」


 それだけ言うと、ミコは何かしらの魔法でその時の状況を宿屋の壁に投影した……。──なんていうか……プロジェクターみたいだな……。


音声こそ無いものの、大勢の人達が聖剣を取り囲み、何やら儀式みたいな事をしている。

 すると突然映像が揺れ始め、目の前に聖剣の持ち手部分が落下した。それを見た城の人達が大慌で大混乱している様だ……。──これってミコ視点かよ!


「カナデがスパンッ! とやったとこも見るカナ?」


そう言うと映像を巻き戻し始めた。──この精霊まるでビデオやDVDデッキみたいだな……てよりはビデオカメラ?


「そんなの見ない、いらんいらん……」


 そうなると、俺に罪を擦り付けるか……。もしくは勇者として祭り上げられるってのが定番か……?どっちにしても、非常にめんどくさいな……。


「そういう訳なんだけど、まだパーティー契約は生きてるか?」


今までに誰にも見せたことのないような、爽やかスマイルでトゥナに話題を振る。──う~ん……流石にだめだろうか?


 すると、彼女は呆れた顔で「いいわよ……あの王、評判悪いしね。そもそも、魔王も居ないのに勇者召喚とかなに考えてるの……。まぁ、それはイイとして、カナデ君は自分の秘密を隠す気あるのかしら?」と予想外の回答を返した。──いやね? 俺も、まったく話す気はなかったんだけどな……。


 ひとまず「あははっ」と笑ってごまかした。じいちゃんが言ってたっけ? 笑っておけば、大概の事は丸く収まると!


「まぁ、いいわ。それじゃ~手配書が出回る前に、早く町を出たほうがいいわね……。急いで必要なものを買って、この町を出ましょうか?」


 彼女の意見に賛成だ……ココに長居しても危険しかないだろう。


「あぁ、そうだな。ミコは無銘の中で大人しくしてろよ?」


「仕方ないカナ。少し中で寝てるシ」


 偉そうな態度を取り、ミコは再びバックの中に潜っていく。──おい……。


「そこで寝るなって言ってるだろ!」


 そう言いながらこの後、バックを思いっきり、揺すってやったのだった。

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