Magnificent Force/光の四勇士

きうい

第1話 急襲

 邪知暴虐じゃちぼうぎゃくの魔王が勇者に倒されてから五百年、その存在など絵本の中でしか見られなくなったこの頃、世界には平和と活気が満ち溢れていた。

 魔法学と貿易が盛んな国「ハンデル」もまたそうであった。


 そんな平和な国に住む騎士の青年「エメリー」は、久々の休暇を満喫するため国の中心街へと来ていた。この街は近辺に王宮があるということもあり、非常に栄えている。ひとたび街へり出せば、パン屋の香ばしい香りと八百屋の威勢の良い声、家族の幸せそうな笑い声で溢れている。


 エメリーは数ある店の中から、とある武具屋に入っていった。


 武具屋には、ショーケースに入れられた剣や防具、壁にかけられた盾などがずらりと並べてある。とりわけこの武具屋は評判がよく、綺麗に整列させられた武具たちは、見た目からして良質そうなものばかりである。


「おう、エメリー! 今日は騎士の務めはお休みかい?」


 店の主人は、彼を一目見ると、カウンターから野太く雄々しい声で彼に言った。


「ええ、ハンさん。たまの休みは取らないと。死んじゃいますよ」


 エメリーは冗談ぽく笑い、主人に近づいた。


「まぁ、騎士の連中は大変だって聞くからなぁ」


 ハンはうんうんと唸っていると、突然パッと顔を上げた。


「あ、そうだそうだ。前に頼んでくれたお前さんの『剣の烙印スティグマ』、出来てるよ」


「もう出来たんですか? 仕事早いですねハンさん」


「まぁこの程度、俺にかかれば朝飯前さぁ! ちょっと待ってな」


 ハンは店の奥の方へと消えると、ある剣を持って出てきた。


「ほら、ご覧あれ」


 その剣は藍色に染められた、上質な皮の鞘に納められていた。グリップは黒く、ガードは銀で作られており、金のラインが二本入っている。


「……すごい」

 

 さらにエメリーが抜刀してみると、その白刃には三つの魔法陣の烙印が描かれていた。


「どうだ。中級魔法だが、戦闘にはちょうどいいだろう。上から『硬質化Ⅲ』、『切れ味Ⅲ』、『軽量化Ⅲ』の効果を付けといた!」


「こんなに……ありがとうございます!」


「いいってことよ! お国を守ってくださる騎士の一人だし、ガキ騎士学校生の頃からのお得意さまだしなぁ」


 ハンはエメリーの肩をばしばし叩きながら、満面の笑みで言った。


「ありがとうございます……」


 エメリーは頬をひきつらせながら苦し紛れに言った。


 エメリーはその打撃が止むまで笑顔を絶やさず、じっと耐えた。


「そ、そういえば。今日もまたお願いがあってきたんです。この鉄剣に「烙印スティグマ」を――」


 エメリーが叩かれた右腕をさすりながら、今回の依頼を言おうとしたときだった。


 大きな爆発音が辺りに響いた瞬間、地面が大きく揺れて二人ともバランスを崩し、その場に転倒してしまった。


 幸い、武具屋の武器や装備は固定されていて落下はしなかった。ただ、それよりも気になるのは――


 二人はすぐさま立ち上がり、店の外へと飛び出した。


 二人はまず、上空に目を奪われた。なぜなら、そこには青空には似合わない、巨大な禍々しい穴が空いていたからだ。次に、二人はその下の光景に目を奪われた。そこには、破壊され粉々になった噴水と女神像、倒れている人達。


 そして何より、紫の波動を全身から燻らせている三体の――


「――魔物だ」


 エメリーは緑の目を見開いて言った。





 

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