9 愛 ラブ

 愛 ラブ


 愛だよ。愛。


 ……愛。


「人生嫌なこともたくさんあるさ。でも思い出してみて。楽しいこともたくさん、たくさんあったはずだってね」と、あなたはあなたの横を飛んでいる私と子供の鳥に向かって、にっこりと笑って、そう言った。


 私はそのあなたの言葉を聞いて、その通りだと思った。


 青色の空の中を自由に飛ぶ。


 私とあなたと子供の鳥の三羽の鳥は、ほかにどんな鳥の姿も見えない、青いその空の中をゆっくりとしたスピードで飛び続けた。


 空は永遠に続いていた。(それは、まるで私の憧れた海のような風景だった)


 あなたは両親を亡くしたばかりの子供の鳥のために(あるいはもしかしたら私のために)アクロバット飛行を見せてくれたり、たまに凄い高度の高い場所を飛んだり、じゃなくにとても引く場所を飛んだりして、ずっと落ち込んでいる子供の鳥を楽しませていた。(そして時折、子供の鳥の飛ぶ姿を見守ったり助けたりした)


 わたしも少しだけ、そんなあなたの空を飛ぶ姿の真似をしてみたりした。それはとても幸せな時間だった。


 私はずっと子供のままで、将来のことなんて、あるいは自分たちがどんな大人(人間、あるいは鳥)になるかなんて、そんなこと全然、想像することもできなかった。


 そんな私が急にあなたと出会い、そして子供の鳥と出会って家族になった。(それをある人は家族の真似事だというのかもしれないし、もしかしたら、その通りなのかもしれないけれど、私たちは確かにこのとき家族だった)


 私が白い鳥で、あなたが黒い鳥で、子供の鳥が青色の羽色をした少し変な三人家族の鳥。


 私は家族を持って、きちんとした大人になられければいけないと思った。


 そして私はこのとき、生まれて初めて『自由になった』と思った。


 私は自分の力で、自由にこの青色の空の中を飛んでいるのだと、心の底からそう思ったのだった。


「この先、どこか行ってみたいところはある!?」先頭を行くあなたが後ろを振り返って私と子供の鳥に向かって、(風が吹いていたから、少し大きな声で)そう言った。


 子供の鳥は私の顔じっと見た。


 私はそんな子供の鳥の顔をじっと見返したあとで、あなたの顔を見て、「海!! 私海を見たことがいままで一度もないの!」と私はあなたに大きな声で返事をした。


「海を見たことがない!? それはもったいないね。よし、決まった。これから三人で海を見に行こう!」とあなたは言った。


「……わたしも海を見たことない。だから海を見てみたいです」と子供の鳥は私を見て、嬉しそうな(でもちょっとだけ控えめな)声でそう言った。

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