7-9 母への想い

 クリスマスコンサートが終わり、サロンに集まった人たちはそれぞれ家路についたが、真智子は後片付けのこともあったので、他のスタッフと一緒にサロンに残った。萌香はクリスマスコンサートの間中、興奮していたし、最後は泣き疲れたのか、諒の腕の中で眠ってしまったので、そのまま諒が寝室のベッドに運んだ。


—後片付けをしている真智子に美紀がそっと近寄るとため息をついた。

「萌香のことで、心配かけて、ごめんなさいね。きっと母親のことを想い出したのね。まったく諒ったら、萌香のことを思ってのことだとは思うけどやりすぎなんだから……」

「諒さんも美紀先生も、お母さんの分も萌香ちゃんのことを思って大事にしているんですね。萌香ちゃんも今まで我慢して良い子にしていた分だけ、お母さんに会いたくてたまらなくなったのかもしれませんね」

「ええ、時々、会いたくてたまらなくなるみたいね…。だから、できるならそのうち会わせてあげなさいって諒にも伝えているの。母親のユリアに」

「萌香ちゃんのお母さんの名前、ユリアさんっていうんですね。そういえば、いつかドイツに会いに行くって萌香ちゃんが言ってたわ」

「ドイツに会いに行くのは諒も忙しそうだし、今は無理だと思うんだけど、最近、インターネットのオンラインで顔を見て話ができたりするでしょ。なんとか伝手を頼りに連絡を取り合えないかと考えているの」

「確か、諒さん、最近、ドイツにいらっしゃるご友人の伝手でユリアさんのことを聞いたっておっしゃってたけど…。もし、連絡が取り合えるようになったら、春休みにでもドイツに会いに行くのもいいかもしれませんね」

「えっ!諒がそんなことを言ってたの!?」

「はい、ユリアさんがシスターとして働いているってご友人から聞いたそうです」

「そう。私は知らなかった。早速、諒に聞いてみないと。真智子さん、ありがとう」

美紀は慌てた様子で萌香の寝室に向かった—。


 サロンの後片付けが終わったことを美紀に報告しにスタッフ一同で本宅に向かうと慎一と諒と美紀は食卓でお茶を飲みながら、話し込んでいた。


「皆さん、今日はお疲れ様でした。皆さんの協力のお陰で素晴らしいクリスマスコンサートになったわ」

美紀がスタッフに向かって笑顔を向けた。

「あの、萌香ちゃんは大丈夫でしょうか?」

リーダーの上田香織が心配そうに尋ねた。

「ええ、ご心配かけたけど、ぐっすり眠っているし、明日にはきっと元気になると思うわ。皆さん、今日はこれで帰っていいわ。慎一さんもいるし、真智子さんだけここに残ってくださいね」

「諒さん、慎一さん、今日は素晴らしい演奏をありがとうございました。ほんとうに感動しました。諒さんの美声にも心を打たれました」

上田香織がスタッフ代表で挨拶をした。


「そのうち、サクマピアノ教室のスタッフの皆さんの演奏も企画してくださいね」

諒がスタッフに葉っぱをかけるように言った。

「えー!それはなかなか実現しにくいかも。みんなピアノ教室の先生以外にもそれぞれ何か仕事があったりして忙しいんです」

「私だって慎一だって、大学のことで忙しいけど実現できたんだから、みんなだって気持ちを一つにすればできるはず」

「諒さんや慎一さんのレベルだからこそコンサートが実現できたんだと思います!」

「まあ、真智子さんと慎一は近々、このサロンで結婚披露宴の時に演奏を披露してくれるんだよね」

「えっ、そうなんですか!?」

「一応、その予定です」

慎一が照れたように言った。

「なんだか素敵ですね。真智子さんが羨ましい!」

上田香織をはじめとしたスタッフ一同は一斉に、真智子を羨望のまなざしで見つめた。






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