5年間ログイン作業だけしてたら フル装備で大金持ちの初心者勇者(ミンティッド)が出来ました
@Bax
第1話 ログイン作業だけしていたら 異世界へのフラグが立ちました
「せめて心の覚悟ぐらいさせてよ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
アイスコーヒーを頼んだ俺は、ガムシロとミルクを投入したコーラを飲み。盛大にむせながらそう言った。
店員さんが間違えたらしい。
「はあ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
仕事を早めに終えた俺は、サイバーシティのファクドナルドで、スマホを片手に1人ため息をつく。
外国人、カップル、JC、外国人、家族連れ、外国人、外国人⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
(いや、外国人多いな!?)
そんな光景に、冴えないツッコミを交えながら、冴えない表情で、スマホを弄っている。
31歳。
そこそこの収入と平凡な毎日。当たり障りのない性格。昔はもう少し熱いところもあったけど⋅⋅⋅。
世間を語るには、まだ若く。夢を語るには、少し遅い。そんな31歳の男。それが俺だ。
きっと周りの評価と相応にモブキャラの中のモブキャラ。外国人達の視界にも入っていないのだろう。
そんな冴えない俺がスマホで何をしているかって?
『ログイン作業』
ご存知ない方の為に簡単に説明しよう。
スマホゲームのアプリでは、1日1回ログインする事で、レアなアイテムや、本来は有料課金しなければ手に入らないゲーム内通貨等を手に入れることができる。
普段やっているゲームでも、忙しい日などはログイン作業だけやって、ログインボーナスのアイテムをゲットする。なんてことがあるのだ。
まあ、有り体に言えば、冴えない作業だ。
俺は普段から、このログイン作業を毎日欠かさず行っている。ログインするだけとはいえ、スマホに入っているゲームは1つだけではない。それなりの数があれば30分。イベントの時期になれば1時間かかることもある。
だから俺はスキマ時間も無駄にしない。雨の日も風の日も、ぐうたら寝ているキリギリス達や、せっせと働く蟻達を余所目に、ログイン作業に勤しむのだ!!
⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
虚しい。
そう、ログイン作業は時に虚しいのだ。
実はそれなりの数のスマホゲームをやっていると、中には
「ログイン作業しかしないゲーム」
が出てくるのだ。
これが、虚しい。何のために、自分はこの作業をやっているのだろう。まるで自分という人間の価値を測られているかのような錯覚に陥ったり、陥らなかったり。
初めは軽い気持ちでインストールしたのだが。日々の生活に追われ、プレイ時間を確保出来ずに、とりあえずログイン作業だけのゲームが出来上がるのである。
俺のスマホにもそんなゲームがある。
【ブレイク ファンタジー Third】
このゲームが正にそのログイン作業だけの存在である。
サードと言われているだけあって、コンシューマーゲームから合わせてシリーズ3作目のこの作品。いわゆるソシャゲRPGである。最大の売りは王道ファンタジーの世界観に展開される重厚なストーリー⋅⋅⋅⋅⋅⋅。もそうなのだが⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
実際のところ、俺は女性キャラクターの絵柄が好みだった。
そんな不純な動機でダウンロードしていたため、ついついプレーはせず、ログイン作業。しかし、絵柄は好みなので、いつかはやるだろう、やりたい、やれるはずだ!⋅⋅⋅⋅⋅⋅の繰り返し。
雨の日も風の日も、ぐうたら寝ているキリギリス達や、せっせと働く蟻達を余所目に⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
気づけば⋅⋅⋅⋅⋅。
かれこれ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
ーー5年もの間、
ログイン作業だけしていたのであるーー。
ーーーー。
(そう言えば、これ今期アニメ化するんだっけか。ちょっとやってみようかな。)
仕事を早めに終えた俺は、時間も余っていた事もあり、【ブレイク ファンタジー Third】をプレイする事にした。
ポチポチ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
(うわーめっちゃ金持ってるなー。)
ーーーーーーーー
昔、誰かが、こんなことを言っていた。
「人間の想像出来ることは、全て起こりうる現実である」
ーーーーーーーー
(魔晶石もほぼ無限にあるわー。)
ーーーーーーーー
昔、俺が大好きだった。先生がこう言っていた。
「どんな人にだって、いつか必ずヒーローになる時があるんだよ。」
ーーーーーーーー
(これなら、スタミナも回復し放題かなー。)
ーーーーーーーー
今年、引退するバスケット選手がこう言っていた。
「俺に才能があるとしたら、報われないのが分かってたって、ただ毎日、黙々と与えられたルーティンをこなせる能力だ。」
ーーーーーーーー
⋅⋅⋅⋅⋅⋅ドクン。
「うっ⋅⋅⋅⋅⋅⋅!?」
急に強烈な頭痛に見舞われた。
目眩がする。
視界が眩む。
走馬灯のように周りのスピードがゆっくりになっていく。
(苦しい⋅⋅⋅⋅⋅⋅。あ⋅⋅⋅⋅⋅⋅俺⋅⋅⋅⋅⋅⋅死ぬのか⋅⋅⋅⋅⋅⋅?)
人生ってこんなにも呆気ないものなのか。
本当に何にも無い一生だったな⋅⋅⋅⋅⋅⋅。
遠退いていく意識の中。コーラもコーヒーも無いけれど。呪文のように俺は呟いた。
「せめて心の覚悟ぐらいさせてよ⋅⋅⋅⋅⋅⋅。」
(続く)
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