デリバリー
奥田啓
第1話
また落ちた。
手元には先日受けた企業からの不採用通知。
何度も何度もそれを受け取ってどうせ、と思いつつもしかしたらと少しだけ思ってやっぱりとちょっと傷つく。
いや本当は思ってるより傷ついてるのかもしれないがこれを繰り返しすぎて痛みが鈍っているのかもしれない。
ゴミ箱に入れながら、床に寝っ転がる。
正社員は高望みなのかな。
いつからこんなに選ばれしものになったんだ正社員とやらは。
周りがふつうに就職しているのが
ものすごく凄いことに感じてくる。
28になり、もう結婚もするころだ。
おれはなにも持っていない
職も、家庭も車も。
もたざるものだ。
失ってるものは多い。
時間、金とか
金がないから歯医者も行けず口の中はボロボロ。虫歯がひどいので歯を出して笑わなくなった。
表情も失ってる。
もたないものは失い続ける。
そういえばこないだ父から電話があった。
どうせ小言を言われるからと電話がかかってきても取らなかったが、最近体調を崩したことをきいてなんだからチクチク胸がいたくなって不安になり、つい電話をとってしまった。だがわりと元気そうで相変わらず小言を言われてうんざりした。
その小言まではまだ良かった。
おれにダメージを与えたのは
そういえばお前の歳で結婚したんだよなあ
この一言だった。
よくあるはなしで平凡だが
おれにとってはクリティカルなダメージだった。
なにかと親が自分くらいの時と比べてたり
基準にしてたらするが
20代くらいからなるべく親年表と照らし合わせるのが嫌になりやめていた
親がいくつのときに結婚したとか知ってるような知らないようなうやむやな理解をしていたのに
まざまざとはっきりとした数字を、事実を突きつけられてしまった。おれと同じ年に結婚した。
べつに違う人生なんだからとおもわれるかもしれないが
そんなこと言われたって比べてしまうんだからしょうがない
ショックを受けてしまうんだからしょうがない。
ああそんなこと考えていたらバイトの面接の時間だ。いかなければ
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