172話 再武装
竜人はベアトリスを胸に抱いて、羽を羽ばたかせながら義清のすぐ近くに着地した。
竜人は義清に目礼してベアトリスを降ろした。
するとベアトリスは口を押さえて城壁の隅へと走った。
そして虹色の嘔吐物を吐き出した。
ゲーゲー言っているベアトリスを見かねて横にいた戦士が背中をさすってやっている。
恐らく、地面が崩れて三つ首竜が落ちる直前に竜人がベアトリスを拾い飛び上がったのだろう。
相当の酒を飲んだベアトリスの胃袋はその動きに耐えられたなったのだ。
義清が崖下を覗くと土煙が晴れ始めていた。
三つ首竜は巨体の半分ほどが土の中に埋まり、首も1本が地中にある。
ほとんど身動きが取れない状態のようだ。
「アルター」
義清は先程まで自分に付いてきていたアルターを呼んだ。
しかし、アルターは近くにはおらず何度か呼ぶと現れた。
「どこに行っていた?アルター」
「いえ、お気になさらず……それよりなにか御用で?」
「黒母衣衆の一部を再武装しろ。何人か連れて近衛師団と話をつけてこい」
「なんと言って?」
「そうだな。竜を我らが鎮めたとでも言えばよかろう。先に近衛師団と争ったのも竜を鎮めるためにやむなくやったと」
「信用されますかな?」
「かなりの兵士が逃走している。残ってるのは逃げ遅れた者か忠義者か蛮勇者だけだ。この騒ぎの原因を知る者はいないだろう。丸め込んでしまえ。ガタガタ騒ぐようなら竜を再び起こすと脅してしまえ」
「ハハハ、それは相手も肝が縮みましょう。ところで実際のところ竜は大人しくなったので?」
「わからん。だが
義清は城壁隅でまだ戦士に背中を擦ってもらっているベアトリスを指さした。
「承知しました。さっそく再武装に取り掛かりまする」
「うむ。ゼノビアとラインハルトに黒母衣衆の再武装がばれるが仕方あるまい」
そう言って義清が武器の山に目をやって、驚いた。
ボア族とヴァラヴォルフ族の一部が再武装を始めていたのだ。
義清はアルターを睨んだ。
「誤解されては困りますぞ。大殿は黒母衣衆を再武装するよう命令する前に、走っていってしまわれたではありませんか」
アルターの言う通りだった。
義清が黒母衣衆の再武装をアルターに命じる直前に、三つ首竜が地面に飲まれた。
その音に反応して義清とアルターは崖際まで走った。
しかし、アルターは途中で気づいて走る方向をかえた。
アルターは黒母衣衆の再武装を正式には命令されていない。
今ならヴァラヴォルフ族の族長であるゼノビアへ、今再武装すると得をすると知らせても命令違反にはならない。
アルターは早速ゼノビアに知らせた。
3つの集団の武器の山の一部が混ざっていること。
それにより今再武装すれば他の集団の武器を横取りできるということ。
ゼノビアはさっそく配下に再武装を命じた。
彼女の抜け目のないところは、この時ラインハルトにも全てのことを知らせたことだ。
ヴァラヴォルフ単独で再武装するよりボア族も巻き込んで再武装することで、責任の所在を曖昧にしてしまおうというわけだ。
もちろんラインハルトも二つ返事で配下に再武装を命じている。
知らぬは義清ばかりというわけだ。
こうして義清が見た時には黒母衣衆の武器の山が、ボア族とヴァラヴォルフ族の戦士に切り取られている真っ最中だった。
「やってくれたなアルター」
「やはり、護衛大将は臨時ではなくエカテリーナ殿が、いつ何時も務めるのがよろしいかと存じます」
「よう言うわ。あの長耳め、今頃どこかで酔っ払ってひっくり返っているに違いない」
その通りだ。
「とにかくアルター、臨時とはいえおまえはワシの護衛大将だ。黒母衣衆を再武装させろ」
「御意」
「再武装にはワシも立ち会う」
そう言って義清はアルターを従えて武器の山へと歩き始めた。
「二人ともそのへんにしておけ、それ以上
義清は黒母衣衆の武器の山からせっせと武器を運び出す配下に指示する、ゼノビアとアルターにむかって大声で怒鳴った。
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