167話 見物


 三つ首竜は城門を破壊して義清たちのいるくるわより一段下の郭へと向かった。

しかし、城門を出た直後に三つ首竜の歩みが止まった。


 下の郭へと続く道が狭かったのだ。

狭いと言っても人が通るには十分な道幅だ。

それでも、三つ首竜にとっては狭い。


 この辺りの郭は崖を繋げて急な坂を作ることで攻め手の速度を鈍らせることを目的としている。

郭と郭の間を繋ぐ道も崖に沿って折り返しながら、下へと続いている。


 三つ首竜はそういった細かい道を降りることを面倒に思ったのだろうか。

眼の前の城壁に勢いよく突進して突き崩すと、崖から飛び降りてしまった。

人であれば間違いなく死ぬ高さだが、三つ首竜ほどの巨体ならばどうということはない。


 翼も使わずに着地して凄まじい地響きを響き渡らせた。

間の悪いことに三つ首竜が着地したすぐそこに近衛師団の本隊がいた。


 近衛師団からみれば突然に崖上の城壁が崩れたかと思えば、瓦礫と一緒に三つ首竜が降ってきたのだ。

突然の三つ首竜の出現に近衛師団は大いに驚き動揺する。


 この様子を義清たち大禍国の者たちは崖上から見ていた。

三つ首竜の去った義清たちがいる上の郭は今や崖際まで黒山の人集りができている。


 みんな城壁の上に登ったり、城壁が崩れた崖際まで行って下の郭の様子を見たいのだ。

三つ首竜は既に、大禍国と近衛師団は別の集団と認識している。

自分たちに危害の及ばない戦いを見れると野次馬根性丸出しで、大禍国の者たちは近衛師団と三つ首竜の成り行きを見物しようというのだ。


義清たちも城壁上まで登って悠々と見物を決め込んでいる。


義清が言う。


「さて、どうなるかな」


ゼノビアが答える


「意地の悪い。答えは出ているでしょうに」


ラインハルトもうなずいた。


「左様、この場合はどれだけ持ちこたえられるかが正しい質問ですな」


最後にまた義清が言う


「どれだけ死ぬかと聞くべきだったかもしれんな」


 大方の予想通り近衛師団はすぐさま三つ首竜に剣を向けた。

盾を並べて陣を敷くと弓隊が勢いよく矢を放ち三つ首竜を射る。

しかし、三つ首竜の分厚い外皮に阻まれて全く効果はなかった。

わずかに刺さった矢も三つ首竜がブルリと動くだけで簡単に抜け落ちてしまう。


 三つ首竜はこの攻撃で近衛師団を敵と認識したようだ。

鋭く吠えると勢いよく走だし、あっという間に近衛師団との距離を詰めた。


 3本ある首を存分に使い近衛師団の兵士を4、5人まとめて噛み取ると、一噛みでバラバラにしてしまった。

また勢いよく走り出し、すぐに止まる。

これだけで数十人の兵士を轢き潰すことができた。


 続いて翼を振るい、風を巻き起こして近衛師団をその場に釘付けにする。

そうして動けなくなった近衛師団めがけて息吹ブレスを吐き出した。

カンカンと口の中で音がなったかと思うと、凄まじい落雷が3本の首から放たれる。


 息吹は激しく動く3本の首に従って辺りを縦横無尽に焦がしていく。

息吹の通った跡の地面は黒く焼き焦がされて、その上にわずかに体から煙をだす近衛師団の兵士が、折り重なるようにして何十人も倒れている。


 もはやそれは戦いではなく、陸に上がった魚が猫にもてあそばれるような、一方的な虐殺だった。

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