145話 値踏み2


「では、本当にお国の兵に加勢されないのですか?」


クネークが義清に念を押して聞いた。


「しませんな。あの程度の小競り合いは日常茶飯事、下で騒いでいる連中でなんとかできるでしょう」


 義清は果物を食べるのにも飽きてきたので、他になにかないかとテーブルの上を見渡しながら答えた。


「断っておくが止めはするつもりですぞ。別に好きで近衛師団とわしの兵が揉めておるわけではありませんからな」


 義清はゆで卵を見つけて、これなら薄味だろうと関係ないと喜んで手にとった。


「加勢して一挙に近衛師団を殲滅、敗走させて決着を着けるのも手では?」


 今度はベッティンガーが義清に言った。


(こやつ‥‥)


義清は目の端で見ながら思った。


 同じ加勢を勧めているがクネークとベッティンガーでは内容が異なる。

クネークは純粋に大禍国の兵の損害を抑えるためやこれ以上争いを大きくしないために言っている。

大禍国を心配して言っているのだ。


 一方、ベッティンガーは違う。

 ベッティンガーは義清直轄である黒母衣衆の実力が知りたいのだ。

先程の広場の戦闘でボア族とヴァラヴォルフ族の連合軍の実力はある程度ベッティンガーにはわかった。

あとは、義清が直接指揮を取る黒母衣衆の実力がわかれば、大禍国全体の実力をある程度推し量ることができる。


 小国とはいえ、精鋭の兵を養うことで周りの領主と渡り合ってきたアルベルト家当主であるベッティンガーは、抜け目なく義清から情報を引き出そうとしているのだ。


 義清もこのことに気づいている。


(息子の方はただのお人好しか未熟なだけかもしれんが、ベッティンガーの方は油断ならんな)


 このやり取りで義清はふと、砂漠で出会ったラファルノヴァ帝国第三王女ナタリアのことを思い出した。


「いや、やはりやめておきましょうぞ。わしの手勢からいくらか出して、争いを止めれば済むことゆえ」


 ベッティンガーは義清のこの言葉に、そうですかとだけ答えた。

惜しいことだが小国の自分はこれ以上強くは言えないと自重したのだろう。


 ベッティンガーは見ていないが大禍国にはボア族、ヴァラヴォルフ族、黒母衣衆の他にもう1つ勢力があるのだ。


 大主教を頂点としスケルトン総指揮官に指揮されるガシャ髑髏とスケルトンの集団だ。

大主教は義清の都上りには付いてきたが、王宮へ向かう一行には興味がなかったので加わっていない。

そのため、大主教は王都郊外の大禍国駐屯地に待機している。


 大禍国でもある意味一番癖の強い大主教のことを、ベッティンガーはこのとき知るよしもなかった。


そして、義清もまさにこの時、大主教が駐屯地で問題の真っ只中にいることなど知るはずもなかった。


「義清公!!義清公はおらぬかっ!!大禍国領主、義清公はいずれぞっ!!」


大広間の奥から王国宰相代理であるシュタインベックの声が響いた。


「まずい、一番いやな奴が早々に嗅ぎつけおったわ」


 義清はシュタインベックが、大禍国と近衛師団の争いを嗅ぎつけたと思いため息をついた。


しかし、シュタイベックが持ってきた報せはそんな生易しいものではなかった。

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