144話 命中率


「一番、‥‥放ていっ!!」


 ゼノビアの号令でスケルトンの筒衆が暴筒を一斉に射撃する。

全速力で走りながら角を曲がった近衛師団の先頭集団が、弾かれたように後方に吹っ飛んで絶命した。

暴筒の直撃弾を受けたのだ。


「一番退避たいひ急げっ!!二番前へっ!!」


 射撃が終わった一番と呼ばれた筒衆が左右に分かれて、城の奥へと下がっていく。

続いて二番と呼ばれた筒衆が正面に立って膝をつく。


「めくら撃ちでかまわないよ、二番、放ていっ!!」


 ゼノビアは狙う時間を惜しんだのか、射撃位置についた二番目のスケルトン筒衆に即座に発砲させた。

先頭集団が突然何人も倒れたことで止まって混乱している近衛師団に、容赦なく暴筒の弾が降り注ぐ。


「二番、退避急ぎな!!奥まで下がるんだよ」


 ゼノビアの横を筒衆が走って城の奥へと向かっていく。


「ゼノビア様もお早く!!」


ヴァラヴォルフ族の組頭が退避する気配のないゼノビアを急かした。


「待ちな、そう急かすんじゃないよ」


 そう言ってゼノビアは膝をついて暴筒を構える。

 ゼノビアの視線の先には馬に乗った近衛師団の先頭集団の指揮官がいた。

大声で配下の兵を叱咤激励してなんとか現場の混乱を収束させようと躍起になっている。


 その指揮官の真横を轟音と共に何かが通り過ぎた。

指揮官の後方で悲鳴が上がる。


「チェッ、はずれちまったよ。やっぱり扱いが難しいね。こいつは」


 ゼノビアが手に持つ暴筒を見ながら言った。

 暴筒は筒の後方に取り付けてある棒を地面に着けて射撃する。

こうすることで射撃時の衝撃を後方に逃がす事ができる。

しかし、暴筒を真っ直ぐ構えることができないので、弾は放射線を描いて飛んでいく。

そのため自然と命中率は下がってしまう。


 射撃の上手い名手と呼ばれる者でも6割、普通は4割の命中率があればいい方だ。

だから、集団で撃ってその内のいくらかが当たればよし、として運用される。


 ゼノビアは、混乱する現場を収めようと頑張っている近衛師団の先頭集団指揮官を、亡き者とすることでさらに近衛師団を混乱させようとして射撃したのだ。


 結果は弾ははずれて後方の兵士に命中してしまった。

ゼノビアはあらためて暴筒は1つだけでは何の役にも立たないと思った。


「ゼノビア様っ!!」


 ゼノビアの後方からボア族の戦士が声をかけてきた。


「なんだいボア族の、伝令かい?アンタたちの番は次だろう?」


「は、そのことなんですが、ラインハルト様がせっついておりまして。さっさとゼノビア様にも後退してほしいと‥‥」


「なぁにがしてほしいだい、しろって言ったのをアンタが気を使うことないんだよ」


ゼノビアは立ち上がって近衛師団を見た。


「もうすぐ混乱から立ち直るね。あんだけやりゃ十分だろう。それにしてもラインハルトめ、どうしてもやってみたいって言うから筒衆を貸してやったのに。ふざけやがって」


ゼノビアはなおも近衛師団を見つめる。


「‥‥もう1発だけ撃ってみよう。今度は当たる気がするんだ」


『ゼノビア様っ!!』


ヴァラヴォルフ族の組頭とボア族の伝令が同時に声を上げた。


「わかった、わかったよ。下がりゃいいんだろ。まったくなにさ、たかが暴筒の1発2発」


ゼノビアはブツブツと文句を言いつつ、ボア族が陣を張る後方まで駆け出した。

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