141話 アルベルト家


「我が領地を横断するように流れる河が5年前に氾濫してしてまったのです」


ベッティンガーは昔を懐かしむようにして話し始めた。


「それは大変でしたな」


義清も礼儀としていった。


「被害自体はそこまで大きくありませんでした。それで水が引いたのを見計らって氾濫した場所に新たに堤防を築くことにしました」


「なるほど」


「それで工事の最中に川底から出てきたものがこれです」


 ベッティンガーはポケットから取り出した物をテーブルの上へと置いた。

義清はひと目でそれがなにかわかった。


「ほほう、琥珀ですな。専門的なことはわからんが中々の一品ではありませんかな」


「そうです。氾濫した場所と川底から非常に状態のいい琥珀が見つかりました」


「なるほど、領地から思わぬ特産品が生まれたと思ったら、それを狙うハイエナが現れたというわけですな」


「ご賢察恐れ入ります」


 さらに詳しい調査を行うと、アルベルト領の河には相当数の琥珀が埋蔵されていることがわかった。


 これによりアルベルト領の財政は一気に好転する。

元々アルベルト家は少貴族で領地も大きくない。

しかし、前々王であるデゴルイス3世時代に王国臨時親衛隊に任じられたことにより兵は精強で知られている。


 デゴルイス3世と当時のアルベルト家当主は個人的に信頼のおける関係であった。

そのためデゴルイス3世の直臣にアルベルト家は臨時編入された。


 当時の王国貴族は急進的な改革を行うデゴルイス3世に従う派閥と、貴族の権利を守ろうとする保守派に分かれていた。

アルベルト家はそうした保守派貴族からデゴルイス3世を守る為に王国臨時親衛隊へと任じられている。


 主な仕事は王の権利が及びづらい王都から離れた地域の治安維持である。

治安維持といっても名ばかりで、実際はもっぱら反乱貴族の鎮圧が主な仕事だった。


 王都から反乱貴族を鎮圧するための軍団が送られる。

アルベルト家はその軍団が来るより前に現地入りして橋頭堡を築く。

そして、軍団到着までこれを独力で維持するのが任務だ。

これが逆に信頼のおけない貴族だと保守派に取り込まれ、数少ない王の直轄軍団が到着して罠にはめられる恐れがある。


 アルベルト家は肩書は大きいが実入りが少なく、兵の損害が多い役目を担っていた。

王からの信頼を維持するために領地も加増されず、報奨金も危険に見合うものではない。

しかし、当時の軍事改革の先頭をいく家であり兵は精強になっていった。


 デゴルイス4世時代にアルベルト家は王国臨時親衛隊の任を外れる。

しかし、小さな領地で少数精鋭の兵を養うノウハウを身につけることはできた。

代償として領地を接する周りの貴族はもとより、王国中のほとんどの貴族に嫌われている。


 このような経緯をベッティンガーは義清に話して聞かせた。


「かつて王国中の嫌われ者だった我家に琥珀が出たこのは、運がいいのか悪いのか今でもわかりません」


ベッティンガーは酒を一口飲むと更に続けた。

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