108話 ダウレンガ


「報告します!!やはり各陣の魔術師に行われた攻撃は本陣と同じ物。各陣とも被害甚大とのことです!!」


 遠征軍本陣に入ってきた部下の報告に遠征軍総司令官である、イルドガルド・ラインバウト・ダウレンガは苦い顔をして自慢の茶髪ヒゲをなでた。

 この男はラビンス王国の人間ではない。

ファナシム聖光国から派遣された表向きは大使館付きの高位聖職者となっている。

しかし、実態は聖光国が今回の遠征軍の総大将にするために差し向けてきた刺客だ。

そのためダウレンガの遠征軍での地位は総指揮官お付きの者となっており、あくまで補助役だ。

 ウルフシュタットが憤慨して自領に引き上げた挙げ句に、遠征軍がヴォルクス家の領地を通行することを拒否する事態を作り出したのが、イルドガルド・ラインバウト・ダウレンガその人だ。

 それでも聖光国が王国に行った多額のが効いており、実質的にこの遠征軍の指揮はダウレンガがとっている。


「まあまあ、戦いはまだ始まったばかり、ひとまずは弓合戦で城に近寄ることから始めましょう」


 どんよりとした空気を晴らすために、ヴォルクルス・ローゼンが明るく言ってみせた。

 ローゼンは城方しろがたからの攻撃で魔術師が壊滅してから本陣に加わっている。

城からの攻撃で動揺する遠征軍の士気を高める狙いもあったが、遠征軍の領主達から不満が出ているのが原因だ。ダウレンガが馬出しのみに攻撃の重点を置く戦術を示してから遠征軍内に、ダウレンガの指揮能力に疑問を抱く者が出てきている。

 聖光国の人間が中枢まで侵食しているとあって遠征軍も一枚岩ではない。

寄せ手が城からの攻撃で動揺し遠征軍司令部が混乱する中、戦術などを練る司令部の中枢である帷幕いばくは、どさくさに紛れてローゼンを戦術助言役として司令部に組み込んだ。

 寄せ手が攻撃手段を一気に前進することから、弓合戦に切り替えて着実に前進することになったのもローゼンの進言からだ。


「どうでしょう、ここはひとつ敵の突出部以外も同時に攻撃してみてはいかがでしょうか?」


「それはダメだ」


 ローゼンの提案にダウレンガは反対した。

 ダウレンガに王国が簡単に勝ってもらっては困る理由がある。

 そもそも聖光国として王国が東に領土を広げすぎるのは面白くない。

王国は西方諸国と戦いながら遠い隣人と存在してもう。これが聖光国が理想とする王国の在り方だ。

ダウレンガはこの聖光国の理想を叶えるべく本国から、王国が適度に戦力を削る戦いをするように密命を受けている。


「モンスターごときに後れを取ったあっては遠征軍の評判に関わる。ここは最初の作戦通り、敵の突出部に戦力を集中すべきだ。攻め続ければ敵いずれは敵も音を上げるだろう」


「では、せめて前線を予備兵力と交代させるのはいかがかな。疲弊した戦力を下げて新しい戦力を投入すれば攻城もうまくいきやすいと思うが」


「それならば異論はない」


 攻城を行うには攻城陣地を作り少しずつ城に近づかなければならない。

兵力交代に加えて攻城陣地を作ることもダウレンガが認めたことになるが、当の本人はこのことに気づきもしない。

 やがて敵の突出部からの攻撃が弱まっていることが報告された。

ダウレンガがそれ見たことかと言わんばかりに新しくなった寄せ手に前進を命じた。

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