91話 会談

 風が吹くと砂漠の砂が舞い上がるが、どういうわけか舞い上がる砂は多くはなく顔を覆うほどの砂風ではない。太陽は昇りきって時刻は朝から昼へと変わろうとしている。

 そんな中ナタリアと義清の会談は続いた。


「つまり、クロディスの民から案内さえ出せば無用な干渉はしないと?」


義清の問にナタリアが答える。


「そうだ。我らにとってこの砂漠はあくまで進撃路に過ぎん。案内を出すなら金も出そう」


「案内をするのはヴァジム一人だけだな?」


「人数は任せる。砂漠を抜けられさえすれば、それでよい」


義清はチラリと後ろのヴァジムを見た。

ヴァジムはニコリと笑うと案内役を買って出てもいいと言った。

ナタリアの方を向き直ると義清は言った。


「クロディスの民の民はさっき開放されたばかりだ。案内役はヴァジム一人でいってもらう方がいいだろう」


「了解した」


「出発は明朝。それからこちらから百名ほど兵をつける」


「監視のつもりか、義清」


「話が早くて助かるな。そちらを全面的に信用するわけではないから。そちらはざっと見て兵三百といたところか。こちらの兵はその半分もおらんので問題なかろう」


「ふん。よかろう。信用の問題はこちらも同じだ。貴様の兵が私の兵に劣る話、冗談として聞き流してやろう」


「ハッハッハ、以前ラビンス王国のヴォルクルス家の者に会ったが反応は真逆だったな」


「ヴォルクルス家か、あの家は私の遠い血縁だ。会ったのはダミアンの方だろう」


「ウルフシュタットも一緒だったが‥‥。なぜダミアンだと思った?」


「アレは箱入り娘同然に育てられているからな。以前に交換交流で帝都に兄弟で来た事がある。ダミアンはフラフラしているだけだったがウルフシュタットの奴め、私の軍から何を盗見取っていったかわかったものではない」


「尤も尤も、ウルフシュタットは油断ならんと見たがダミアンは下手をすれば死期を早めぬか心配なほどだ」


「フッ、お前でも人の心配はするのだな。人外人じんがいびとは差別せんがその頭では損することも多かろう」


「人を容姿で判断できる甘えが許されるのは、精々木っ端役人風情までだと思っておる。人外人じんがいびととは?」


「言うではないか。人外人じんがいびととはそうだな、そちらのでモンスターとでも言えばいいか。宗教狂い共が最近盛んに宣伝しているアレだな」


「ファナシム聖光国の事か。面倒な国だと思っている。そちらはあの国と敵対していないのか?」


「領土を直接接していないのでな。神官連中と協会はいるが先々代の帝国皇帝の頃に帝国領内で勢力拡大を目論んだことがあった。帝都の哀れな神の子羊たちは、あいつらが言う神の家と共に灰になったよ。私の言を聞き入れていち早く本国に帰ったのはごく僅かだったよ」


 義清達はひとしきり話が済むと会談を終えた。ナタリア達はこの近くで野営することとなった。義清達はラビンス王国から開放したオアシスへと向かう。


 兵に野営準備と周辺警戒の指示を出し終わったクワトロがナタリアに話しかける。


「なんとかなりましたな。いや、実にお見事な交渉でした」


「バカを言え。半分はあやつの譲歩だ」


「何か企みが有ると?」


「あやつがヴォルクルス家のことを話したのはラビンス王国が一枚岩ではないことを伝えるためだ。私達がどちらに付くか選ぶときに間違えるなと言いたいのだろう」


「ファナシム聖光国の件も?」


「あれは私なりの返答だ。持ってきた情報には相応の対価を払うとな。少なくともファナシム聖光国がラビンス王国ほど帝国に影響力がないことは伝わっただろう。そして私がファナシム聖光国の件であやつと敵対しないということもな。向こうもこちらと敵対したくない理由がありそうだったが、そう簡単にお互い腹の中は見せん」


「何はともあれ砂漠の民がいればここまでの行軍速度よりずっと早く進めますな。途中の村に人っ子一人いない時はどうしたものかと思いましたが」


ナタリアはクワトロに今日の間に兵をできるだけ休ませるよう命じると自らのテントに入った。

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