78話 強襲2-2


「ラインハルト、本陣脇備ほんじんわきぞなえである其の方そのほうの部下のをかずかぞえい!!」


「すぐに調べまする!!」


伝令の報告で陣幕内は、即座に緊張した空気に包まれた。その報告から間を置かず義清がラインハルトに命令し、ラインハルトもすぐさま部隊の人数確認に向かうため陣幕から出ていこうとする。その背中に義清が更に言葉を続ける。


「おおまかで良い。組ごとそっくりそのまま勝手に離脱しておらぬかだけ調べよ。抜け駆けの功を狙っておる者達がおるかもしれん!!」


 抜け駆けとは勝手に部隊から抜け出して手柄を挙げようとする事をいう。たいていの場合は部隊の中の一部、多いときには軍団の中の1つの部隊が全て、命令を無視して離脱して勝手に戦うのだ。もちろん軍法により抜け駆けは厳禁であることが多い。勝手に部隊から離脱することを許せば統率がとれないし、その抜け駆け部隊が敗走して、そこから軍団そのものに被害が及ぶこともあるからである。しかし、抜け駆けをおもいつくときは、大きな手柄が目前にあるときがほとんどである。今回の場合でいえば貴族軍の指揮官のピエールの討ち取りや貴族軍の主力の壊滅がそれにあたる。抜け駆けは立派な戦術の1つで、成功すれば褒美も大きいが、そもそもが命令無視の行動ゆえに、失敗すれば最悪死刑もあり得るハイリスク・ハイリターンの賭けなのだ。

 義清はボア族の中に今回の大規模な戦に参加できないことに不満を抱いた者達が、集団で抜け駆けを行ったのではないかと思いラインハルトに部隊の人数把握を命じたのだ。


「大主教、念の為其の方そのほうも部下の人数を数えい」


「承知シた。失礼スる」


 大主教もガシャ髑髏総指揮官を伴って陣幕の外へと出ていった。スケルトンとガシャ髑髏が大主教やガシャ髑髏総指揮官の命令なしに動くとは思えないが、義清は念には念を入れてと命令をだしたのだ。


「エカテリーナよ、人数が把握でき次第、本陣を前進させる支度せよ」


「指揮はお任せを。どちらまで動かされますか?」


「オアシスに沿って東へ回る。黒母衣衆と並列できればそれで良い」


「かしこまりました」


それから義清は伝令を呼ぶと八咫烏を通じて、ゼノビアの部隊に貴族軍の追撃を中止するよう伝えさせた。それを聞いてベアトリスが不思議そうに聞く。


「どうしてゼノビアさんの部隊を止めるんですか?」


「この場合、最も良い場合は、ラインハルトかゼノビアの部隊が抜け駆けしていることだからだ」


「?‥‥もしお二人の部隊から抜け駆けがでていなかったら?」


「黒母衣衆の前面に展開する部隊はこの世界の、我らが知らぬ存在ということになる。敵か味方か、まして正体も知れぬものの前に少数の兵を近づけるわけにはいかぬ」


 義清はさらに伝令を呼んで黒母衣衆の状況を聞いた。伝令が八咫烏に黒母衣衆の状況を尋ねさせる。それによると黒母衣衆の先行部隊が貴族軍殲滅の予定地点に到着しているそうだ。現在黒母衣衆本隊は先行部隊と合流すべく前進中である。間もなく夜明けなので、日が昇れば黒母衣衆前面に展開する部隊の詳細もわかるだろう。

 少しして大主教とラインハルトが陣幕内に戻り、人数が不足していないことを報告した。ゼノビアからもオアシス制圧中の自分の部隊が、抜け駆けに走るとは考えずらいとの報せがはいる。

これによ義清の疑惑は確信へとかわった。黒母衣衆の前面にいるのはこの世界で義清たちが初めて出会う存在だ。


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