19話 謎


「大主教とはなんだ?どうして村にモンスターがいるのだ?」





義清は興味深そうに訪ねた。


 広場はラインハルトが到着したときとは状況がかわっている。

まず、義清がゼノビア率いるヴェアヴォルフ族を伴って広場に到着した。

ラインハルト率いるボア族の戦士たちが広場に散って周囲を警戒している。

到着したヴェアヴォルフ族本隊とボア族、

そしてボア族に随伴していたヴェアヴォルフ族の斥候が、

簡単な打ち合わせをしている。

やがて斥候は広場の警戒をボア族にまかせて周辺の森へと

入って警戒網を構築していった。

ヴェアヴォルフ族本隊は義清の周辺で護衛を兼ねた警戒にあたっている。



 一方、スケルトン軍団も状況がかわっていた。

二人の指揮官に軍団の再編成を任せて総指揮官は義清達と、

幾人かの随伴のガシャ髑髏をつれて話している。

軍団の再編成はほとんど終わっており

二人の指揮官がガシャ髑髏を主力とする集団の編成と、

スケルトンを中心とする集団に、何人かのガシャ髑髏を割り振っている。


 義清は左右にエカテリーナとベアトリス、ゼノビアをつれて

ラインハルトとスケルトン軍団の総指揮官と向き合っている。

先程の質問に対して総指揮官が答える。




「誰だ、お前ハ?」


「この方は俺達の主だ。お前達を助けるのをこの方が決断されたのだ。

 敵ではないぞ」


ラインハルトが総指揮官の失礼にあたる問に補足した。


「こレは失礼した。こチらから見たときにボア族が数が多かったノで

 てっきりボア族のみの集団かト思ってイた。

 あラためて失礼を詫びテ礼を言おう。

 貴殿の決断で我々は前ニ進むことがデきる。大主教を迎えに村に行けル。」


「気にすることはない。成り行きというやつだ。

 それより大主教と村に行く理由を教えてくれ」


「大主教は我々にイノチを与えた者だ。イマは村にいて‥‥」


「待て待て、お前の喋りは特徴がありすぎるし、

 さっきの話の整理の為にも俺が説明しよう」




 ラインハルトが義清達が到着する前に、

総指揮官から聞いた話を義清達に話しはじめた。




 大主教とは中身はガイコツだが見た目も種類も

スケルトンやガシャ髑髏とは違うものだという。

大主教は時々スケルトンの集団の中にいるがその確率はリッチよりも稀で、

人間はもとよりスケルトンでも、その生涯を終えるまでに

3度見れば多いほうだという。


大主教はある種の経典を携えており、1つの目的の為に各地を放浪している。

大主教単体の脅威はほとんど無に等しくスケルトンにすら劣るとされている。

しかし、大主教あるところにスケルトン軍団あり言われるほど、

大主教の周りには常にスケルトンの集団が行動を共にしていた。


 しかしスケルトンの総指揮官が出会った大主教は、

まだそうした集団を持った大主教ではなかった。


そもそも総指揮官はそのへんのスケルトンとは出自が異なった。


 総指揮官と2人の指揮官の3人は、迷宮出身のモンスターだった。

それほど大きくない森の洞窟から入ったところにある、

まだ生まれたばかりの迷宮で3人は生を受けた。


3人は生まれたときは、

ただのスケルトンとしてボロボロの武器と盾を持っているだけだった。

しかし、、3人はそのボロボロの武器とは対象的に

幸運を持って生まれていたのだろう。


 生まれたばかりの迷宮は階層も浅く、

モンスターを外に排出できるほどの力も持っていない。

迷宮が成長し階層も増して、1層ごとの複雑さも増していくまでは、

ある程度の時間がかかる。

しかし誰が見つけたのか、この迷宮は比較的早期に発見された。

調査のためか、あるいは迷宮の中の財宝を狙ってか探索者が数人現れた。


3人のスケルトンが大主教に出会ったのはそうしたときだった。


3人は迷宮に生を受けた者の宿命として、

何人かの仲間と共に侵入者に対して襲いかかった。


 通常ならそれほど脅威とならないスケルトンらの攻撃だが、

地図もなく不慣れな迷宮での、

暗がりからの突然の集団奇襲に探索者は防戦一方となり、

やがて迷宮の入り口へと撤退していった。


3人はカチャカチャと骨を鳴らしながら、侵入者の背中へ刃を突き立てるべく

そのあとを追っていった。


迷宮の入り口に辿り着く前に何度か戦闘になり、

その度に3人の仲間は倒れていった。

入り口を抜けて地上へと出たとき、スケルトンは彼ら3人だけになっていた。


 そして更に不運なことに、外には探索者の数人の仲間が待ち伏せていた。

探索者はただ逃げていてだけではなかった。

自分たちに有利な状況を作り出すべく戦略的撤退を行っていたのだ。


3人は数秒の内に四方八方から斬りつけられバラバラになり、大地に倒れた。


探索者の一人が倒れた頭蓋骨に足をのせて、

ゲラゲラと笑いながら他の探索者らと話しはじめた。




「バーカ、誰がスケルトンなんかにビビるかよ。

 初めての迷宮では慎重に行動するのがいいんだよ」


「まったくだ。こいつら、おびき寄せられてるとも知らずに

 マヌケに追っかけてきてよ」


「ふつう、追っかけてる人数が3人で、

 それの倍以上の人数が目の前にいたら追っかけるのやめるだろう」


「所詮はモンスター、それも危険度下位のド底辺スケルトンだ。

 そこまで頭回らねえよ」


「中はどうだった? いいお宝がでそうか」


「ダメだな。この迷宮はできて日が浅い。

 潜ってもお宝より損の方がでかいだろう」


「チェッ、もうちょっとデカくなるまで放置だな。街へも知らせるな。

 デカいほうが通報料も探索料も実入りがいい」


「まったく、無駄働きだったぜ、お前らのせいでなっと」





最後に探索者は、いままで踏んでいた頭蓋骨を茂みへと蹴飛ばすと、その場をあとにした。


 その蹴飛ばされ頭蓋骨だけになったスケルトンが総指揮官だった。

倒れたモンスターは時間がたてば復活する。

それは迷宮内だけで起こる珍しい現象だ。

3人のスケルトンはもうすぐ生が尽きる

その体は迷宮の外にあるがゆえに復活せず、

やがては風雨にさらされ腐ちていくだけだろう。

それは3人にも本能でわかることだった。



総指揮官は蹴飛ばされて、

茂みの中からバラバラになった自分の体と二人の仲間を見ていた。

もうすぐ自分の生が尽きる。

本能でその事がわかっても自分にはどうすることもできない。


 すると、自分の後ろから茂みをかき分けて歩いてくる音がした。

頭だけの総指揮官は振り返る事ができないでいると

その頭がヒョイと拾い上げられた。


拾い上げた者は総指揮官の頭をその体がある場所、

二人仲間が倒れる場所へと持っていくと、コトリとその場においた。


拾い上げた者は仲間二人と総指揮官の頭蓋骨をきれいに並べた。

そのとき初めて総指揮官は拾い上げた者が大主教だとわかった。


 

 大主教は迷宮から続く足跡を見たあと3人の頭蓋骨に触り、首を振った。

すこし考えたあとに大主教は経典を開くと指で文字をなぞりはじめた。

なぞられた文字だけが紫色に光りだすと、その光が3人の体を包んだ。

光が経典に戻ったとき、

そこには3人のスケルトンが探索者と出会う前の姿になって立っていた。

大主教は経典を閉じて、ため息まじりに首をふるとその場を立ち去ろうとした。



スケルトン3人が立ち去ろうとする大主教にお礼を言うと

大主教は驚きながら振り返って質問した。




「言葉ガ喋れルのか!?」


「‥‥? 喋れルぞ?」


「驚イた。普通のスケルトンはソこマで流暢ニ言葉を話せナい。

 ダークナイトにはなレなかっタが見込みがアりそウだ」




 大主教よると、普通のスケルトンは頭も回らず、

言葉もほとんどしゃべれないのだという。

大主教はダークナイトをつくる手伝いをするように3人に言い、3人はそれを了承した。


3人は主教の目的の為に動き出した。


まず、仲間を増やすために死体を探した。

しかし、死体は探してその辺に見つかるものではない。

そこで3人が大主教と相談して思いついたのは、

3人を襲った探索者達のことを襲うことだった。



 大主教はここでも驚いた。

寝込みを襲ったとはいえ、静かに行動して油断している見張りを倒し、

寝ている、それなりに数もいる探索者達を音もなく3人は葬った。

ふつうのスケルトンは隠密や連携まで考えがいかない。

ガチャガチャと音をたてながら、

数を頼りに幾人かの探索者を傷つけたあとに倒されるのが、

彼らスケルトンができる精一杯の行動のはずだった。





「ここまでが私が聞いた説明です。あとの質問は直接どうぞ」




ラインハルトが義清に言うと、義清は礼を言って総指揮官の方に視線を移していった。




「それからどうしたのだ?」


「かワらない。仲間を増やシていった。」


「兵力としては少なく見えるが死体としては多い。

 よくこれだけの仲間を増やせるほど人間を殺せたな」


「最初ハ苦労した。だがコの土地に近づくにつレて、

 死体が転がってイることが多くなっタ。

 墓モ多かっタので暴いて仲間を増やしタ」


「なぜ死体や墓がそんなに多くある?」


「わかラない。そシて徐々に人間の兵隊ノ姿を見ル機会も多くなっタ。

 そシて今日、大規模ナ人間の軍隊に遭遇シた」


「大主教の目的とは何だ?ダークナイトを創ってどうしたい?」


「大主教は『神々の黄昏』がクるときノ為に、

 我らスケルトンとダークナイトで軍勢をツくるのが目的ダ。

 詳しイことは知らナい。大主教だケが知ってイる。」




ここまで聞いて義清は一息ついてゴリゴリと骨がむき出しアゴを撫でた。




「疑問点をまとめると、

 3人のスケルトンとしては珍しい指揮能力と大主教の目的、

 なぜ死体が多く、人間の兵隊がこの辺りをうろついているのか。

 これらは、大主教に聞くか村に行かないとわからんな」


「まだありますぞ。なぜ大主教が村にいるのかを聞いておりません」




考えをまとめた義清にラインハルトが付け加えた。




「大主教はダークナイトをつクるたメの素材を探しテ、我らト離れスぎタ。

 そシて人間がキて、馬車に乗せラれて村に入っタ。仲間が見てイた」


「どうして抵抗しなかった?」


「屈強な人間が何人かいタ。だカら大主教は逆らワなかっタ。

 仲間も隠れテ見ていタだけダ。

 森の各所デ見張りをシているスケルトンも見てイるだけダ。

 動ケば音や気配でバレる。

 彼ラは隠密には適さなイ。」


「それで村に大主教を取り返しに行くのか。襲うつもりなのか?」


「人間は我ラに言葉より先に剣ヲ向けル。話し合イは無意味ダ」




義清はここでラインハルトに視線を移した。

ラインハルトは困った顔でこっちを見て、ため息をついている。

義清もラインハルトと同じ考えを持っているのだ。


こちらが友好的に接しようとする村に彼らが行っては、村は無傷ではすまないだろう。

その後に行っても義清達、モンスターに対する印象は最悪を通り越して、

スケルトン軍団の仲間だと思われるのは明白だった。



しばらく考えて義清はスケルトンの総指揮官に言った。




「ワシらはあの村に友好的に接したいと思っている。

 だからお前達に行かれては困るのだ」


「我ラは行かネばなラない。大主教ヲ取り戻さナけれバならイ」




 総指揮官の声色に敏感に反応して、随伴しているガシャ髑髏が武器を構えた。

義清が両手を顔の高さまで上げて、まあまあ待てとジェスチャーした。




「いい反応だ。やはりスケルトンとガシャ髑髏は違うな。

 それを指揮するお前さんも違う。

 ワシらはお前さんとも村とも争いたくない。

 どうだろうか、ここは1つ、村への交渉はワシらに任せてくれんか?

 大主教を取り返すのも含めてワシらが受け持とう。

 もし失敗したら、その時にあらためてお前さんらで村を襲えばいいのではないかな?」


「問題なイ。貴殿ラには恩義がある。何か協力すルことはアるか?」




義清はまた、骨がむき出しのアゴをゴリゴリといわせながら考えた。



 そのあとに、ニヤリと笑いながら言った。




「なに、難しい話ではない。

 ワシらがお前さん達にやったのと同じようなことをやってくれればいいだけだ」



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