名前:全員クビ!

生没年:2018/08/15~2018/9/15



小説の成長記録:

2018/08/15ビジネスとスポ根の子供として生まれた。無駄に熱血気味の2500文字の子供であった。彼は熱血気味に一日500以上書いていたが、2018/09/15熱血が空回りし過ぎて急死した。全文字数:59603字



小説の性格:

ブラック企業としてマスコミに頻繁に取り上げられる黒杉通信。しかしその業務実態はマスコミの報道を遥かに上回るものであった。なにかあると、いやなくても社長は部長を殴り、部長は課長を殴り、課長はチームリーダーを殴り、チームリーダーは一般社員を殴り、一般社員は派遣社員を殴り、派遣社員はアルバイトを殴り、そしてアルバイトは掃除のおばちゃんにいつも怒られていた。


そんな黒杉通信の中央支店の営業第4チームは久しぶりに全員顔を揃えて長引きそうなミーティングを行っていた。つい先程営業課長にチーム全員呼び出されて今期の営業目標を達成できなかったらチーム全員クビだと宣告されたのである。ミーティング中に様々な言葉が飛び交った。もう終わりだとひたすら嘆くもの。これは労働基準監督署案件だ訴えましょうと息巻くもの。あのクソ野郎ども全員ぶん殴ってやると課長のところに行こうとするもの。しかし、議論を積み重ねて見えてくるものは結局各々おのおののブラック企業よりも真っ黒な将来だけだった。突然チームのエースの高木が立ち上がって言った。「やっぱり労働基準監督署に訴えましょうよリーダー!」しかしチームリーダーの草野は血の登った高木を冷静にたしなめたのであった。「高木、言ってることはわかるよ。だけど考えても見ろよ。俺たちが勤めてる企業は黒杉通信だぜ!俺たちが労働監督署に訴えることぐらい考えて対策うってるに決まってるだろ!無理だよ!そんなことしたら再就職だってヤバくなるんだ!」リーダーの話を聞いて全員が一斉に黙った。もはや打つ手なし。このまま営業活動を続けてもノルマ達成なんて不可能だ。終わりだとチーム一同頭を抱えたときだった。「先輩たちいいですか?」と言いながら内勤でチーム最年少の吉田が立ち上がったのだった。みんななんだと一斉に吉田を見た。「確かにノルマ達成は不可能で俺たちは全員クビになるかもしれない。だけどどうせクビになるんなら最後の最後まで連中に俺たちの力を見せてやりませんか?悪あがきってやつをしてやりませんか?目標には届かなくてもある程度成績を残せれば会社だって俺たちを見直してくれると俺は思うんですよ!人生で一回ぐらい死ぬ気で悪あがきしてもいいじゃないですか!」


吉田の訴えにチームの心が動いた。吉田の野郎!ついこの間まで新人のガキだったくせに生意気な事言うようになって!畜生こんなガキに説教されるようじゃ俺たちもまだまだだぜ!チームが一つになった。よし俺たちチーム一丸になって死ぬ気の悪あがきってやつをかましてやろうぜ!


営業第4チームはその日から動き出した。連続の光回線への勧誘の電話。深夜過ぎまで続く飛び込み営業。警察に捕まりかけても飛び込みは止まらない。チームリーダーの草野はどんどんいけ!とチームに発破をかけ、吉田も骨は俺が拾ってやりますよと冗談をいった。するとチーム一同、お前俺たちを殺す気かと笑ったのだった。吉田は毎日膨大なリストから本日の営業のための顧客リストを作成する。それを元に外回りチームが連続の電話&訪問をするのだった。みんな早くリスト寄越せ寄越せと吉田にせがんでくる。時間は限られている。一刻も早く現場に向かわなければ!


営業第4チームの営業成績は見違えるほど伸びてきた。課長は奇跡が起きたのかとチームリーダーの草野に言った。すると草野は吉田を呼んだ。そして吉田の肩に手を回して課長にこう言った。「コイツのおかげなんですよ。コイツがチームに発破をかけてくれたからなんです。こいつ入社したときは全然使えないやつだと思ってたんだけどいつの間にかチームの大黒柱になってましたよ。人間って成長するものですよね!」吉田は草野があまりに自分を褒めるのが照れくさかった。


しかし連日の営業攻勢でエースの高木が病気になってしまった。彼はチームで一番契約を取ってきていたから彼の離脱はチームに大打撃を与えた。さらに吉田のサポートを勤めていたバイトの女性の音羽も突然やめてしまったのだ。内勤は吉田一人になってしまった。このままじゃチームの士気が下がってしまい営業成績はノルマに達せずに終わってしまうだろう。とうとうリーダーの草野はわらにもすがる思いで吉田に外回りをしてくれと頼んだ。しかし吉田は草野に言ったのであった。「自分を外回りに使うほどこのチームは落ちぶれたんですか?もっとみんなに本気を出させてくださいよ!そしてリーダーも外回りしてリーダーらしいところを見せてくださいよ!」思わぬ吉田の直言に草野はしばらく黙った後で頷くと、やがて口を開いた。「わかった。俺もやる!」


吉田は毎日朝一番で現場に向かうチームメンバーを見守りながら、頑張れ!みんな頑張れ!と心の中で叫んでいた。


俺たちの第一章 完! 


追伸

みんなの力で俺たちを第二章につなげようぜ!




小説の成長秘話:

実録に近いものであるが、あくまで小説なので細部は作者の都合のいいように大分変えられている。作者はこの小説の登場人物である吉田と同じようにチームで一番の若手社員であった。小説と同じように全員クビを宣告されて、その後緊急ミーティングを行ったが小説のようなドラマみたいな盛り上がりはなくただ淡々と、じゃあしょうがないからやるだけやりますか、といった感じでミーティングは終わったのである。


作者は小説のように外回りのチームに顧客リストを渡していたが、その後は電話とメール対応以外に特にやることもないので彼はみんなを励まそうと小説を書き始めた。そんな作者にチームリーダーが「お前も外回りしたら?」と何度もお願いしてきたがその度に彼は「自分を外回りに使うほどこのチームは落ちぶれたんですか?もっとみんなに本気を出させてくださいよ!そしてリーダーも外回りしてリーダーらしいところを見せてくださいよ!」とリーダーに言ってピシャリと断ったのだった。


作者はたまたまこの小説を書き始めのだが、書いてるうちに自分で盛り上がってしまい、他人の評価が気になって自分の書いた小説を自分のサポートを務めるバイトの女性に読ませたのだった。彼女は読み終わると「ヤバい!この吉田くんって君?ちょっと盛り過ぎじゃないこれ?でもこれ超面白い!」と言って喜んでいた。作者は彼女の反応を見てこれをチームのみんなに見せたきっと喜ぶだろうなと思って小説をどんどん書き進めたのだった。作者はそれから小説の続きを書くたんびにバイトの女性に読ませていたのだが、彼女と盛り上がっているうちに作者とバイトの女性との距離は急速に近づいていった。


外回りチームの努力のおかげでチームの営業成績は急激に上りはじめたが、小説と同じようにエースが急病で突然脱落してしまい。そして作者のサポートのバイトの女性も突然仕事についていけないと言ってやめてしまった。成績の上昇も急に止まってしまいもう八方塞がりだった。ついにリーダーまで外回りに出かけるという。チームメンバー全員疲弊していた。これ以上やったってどうせクビだと諦めの言葉を口にするものまで出てきた。作者もまた疲弊していた。せっかくいい仲になったバイトの女性との突然の別れが辛すぎたのである。


作者は疲弊した自分を励ますために自ら書いた小説をあらためて読んで、そしてとうとうこの小説の出番が来たと確信したのだった。これをチーム全員に読ませてみんなと、そして自分に元気を注入できればと営業成績はまた上昇するはずだと考えたのだった。


2018/09/15作者は小説の第一章(ノルマが達成出来れば第二章も書くつもりだった。)を本日中に完成させるために残業をすることにしたのであった。もうこれは俺の仕事なんだ。早くこいつを完成させてみんなに読ませるんだ。そしてみんなを元気にさせたい。そんな思いで彼は必死に原稿に打ち込んだ。営業課長がそんな作者に声をかけ、「もうクビは決まったのに残業とはよく働くね」と皮肉交じりに言ってきた。彼は課長の言葉に腹が立って言い返そうとしたがチームメンバーの努力を無駄にしてはいけないとぐっと耐えて言葉を飲み込んだ。


もはや誰もいないオフィスで作者はひたすら小説を執筆していた。外回りのメンバーから今日は直帰すると電話が次々と入ってくる。外回りのメンバーは留守電だと思ってかけているから作者が電話に出るとみんな驚いた。「おまえ、残業してるのか?珍しいなおまえいつも定時に家にかえるのに」作者は電気さえ消えた真っ暗闇のオフィスで作者はひたすらみんなを元気づける小説を書き続けた。明日の朝これを見たらみんななんて言うだろう!おまえ凄いな!こんなの読んだら元気になりすぎて死んじゃうよ!なんて冗談を言ってくるかもしれない!よしもう少しで完成だ!


完成した小説を手直しすると作者はチーム全員分の原稿を印刷しまとめた。が、小説にタイトルをつけるのを忘れていたため、慌てて小説のタイトルを決めた。そしてタイトルを表紙にするためにまた全員分印刷したのだった。小説のタイトルはそのものずばりの『全員クビ!』である。全員分の原稿を揃えると、作者は出来たてほやほやの小説を大きいホチキスで一つ一つ丁寧に止めて、それからチーム全員のデスクの上のノートPCにそっと差し込んでいった。


翌朝、電車の遅延で15分ほど会社に遅れた作者を待っていたのはデスクの上に山と積まれた紙の束だった。紙の上を見るとそこにあるのは自分が昨日残業してまで完成させた小説『全員クビ!』ではないか!なんでみんなのノートPCに挟んでおいた小説が全部俺の席に置いてあるんだ!みんなに元気をあげようと昨日残業してまで書いたのに!みんなこの一大事を元気で乗り越えたくないのか?自分を元気づけるのに俺の小説なんて必要ないというのか?作者は動揺してあたりを見回した。すると営業課長、チームリーダー、そして営業第4チームのメンバーが全員彼の周りにいるではないか!


チームリーダーが作者の肩を叩いて紙の束を指差した。なんだろうと作者が考えてるとチームリーダーが「紙の束の横にみんなからお前へのメッセージが書いてあるから読んで!」と言った。作者はやっぱりみんな読んでくれたんだと感激して早速紙の束の横のメッセージを読もうとした。しかしなにもないではないか。作者がリーダーの方を向くととリーダーはここ!と積んである紙の束もう一度、確認するように指さしたのだった。あらためて見ると積んである紙の束の横面に直接太いマジックでこう書かれているではないか!


『全員じゃなくて、オマエがクビ!』


落書きの思わぬ言葉に唖然とした作者はあらためてみんなの顔を見た。みんな激怒のあまり顔から血管が浮き出ている。暫くの沈黙の後、全員一斉に作者を指差しこう叫んだ。


「オマエはクビだ!!」






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