名前:アルデバラン帝国の滅亡
生没年:2019/06/01〜2019/06/02
小説の成長記録:
2019/06/01歴史とファンタジーの第二子として生まれた。真面目な25000文字の子供であった。両親は長子の悲劇を繰り返さないよう大事に育てたがこの子も翌日急病にかかり死亡した。
小説の性格:
奢れるものは久しからず。栄華を極めたアルデバラン帝国も終焉を迎える時がきた。長い政治の腐敗のせいで帝政はもはや機能不全となったのだ。皇帝は政務を放棄し、今政府を牛耳るのは金の力でなり上がった者達で占められる元老院である。元老院の支配は長引き、現皇帝バラン50世に至っては即位してから一度も帝国議会に呼ばれない有様だった。
皇帝バラン50世は御年18才の美貌の青年であったが、彼は生まれたときからあらゆる堕落に蝕まれていた。酒や女のたぐいは勿論、異国から仕入れてきた怪しげな薬にさえ手を出していたのである。そして今日も離宮の庭園で女官や小姓達と戯れていた。そこに現れたのが最近新しく皇帝の教育係として任命されたキケヨである。彼は帝国一の政治学者であり、すでに貴族の子弟の教育係を勤めていた。キケヨの業績を知る名門貴族たちは彼を皇帝の教育係兼宮中顧問官として推挙する事を決断した。バラン50世に徹底した帝王学を学ばせることによって皇帝として自覚もたせ、その権力を行使させることで元老院の力を封じようとしたのである。貴族達はキケヨの所に赴いて彼を必死に説得した。キケヨは本来学者として一生を終えるつもりであったが、貴族達の熱い言葉に心が動き、この国家の一大事に自分の学問が役に立てればと思うようになり、官職につくことを承諾したのである。後日キケヨに勅命が下り、彼は正式に宮中顧問官及び教育係として任命されたのであった。キケヨは皇帝に拝謁したその日に彼の著作『アルデバラン帝国政治史』を献上した。キケヨは願ったのである。皇帝が自らの祖先の偉大なる業績を知って今までの堕落から目覚めてくれることを。
しかし皇帝バラン50世は彼の『アルデバラン政治史』を1ページも読まなかった。だいたい皇帝は字を読むのが大嫌いで、物語のたぐいすら読まなかった。その事実を知ったキケヨは今日こそはと皇帝に説教をするためにいつもは立ち寄らないこの庭園まできたのである。キケヨは庭園に入るとその異様な光景に愕然としたのであった。皇帝の周りには女官や小姓だけでなく卑しい売春婦や男娼までいたのである。彼ら皇帝のそばで半裸で縺れ合っていた。それを見たキケヨは激怒して皇帝に拝謁するなり説教したのである。陛下これは何事か!このような卑しい者たちを宮殿に入れるとは!陛下は国の行末をどう考えておられるのか!陛下はこの間献上した私の『アルデバラン帝国政治史』を読まれたのか!とその他いろいろ拳を振り回して熱く皇帝に語りかけたのである。
18才の若き皇帝はさっきから偉そうに説教しているキケヨに頭にきていた。そしてとうとう耐えきれなくなって、偉そうに説教しやがって何がキケヨだ!このクソ爺いが!と酒をたっぷり入れておいた牛が彫られた壺をキケヨに向かって投げつけたのである。キケヨは身をかわして避けたが、皇帝が投げた壺は床に当たって割れてしまった。床一面に壺の破片と酒が飛び散っている。しばしの沈黙の後、キケヨは床に落ちた割れた壺を見て愕然とした。この壺はあの自戒の壺ではないか!陛下は何ということをしてくれたのだ!まさかこの自戒の壺で酒を飲んでいたのか!割れた壺にはアルデバラン帝国の象徴である牛の模様とともに『もう悪いことはしません』という言葉が刻まれている。代々の皇帝はこの壺の言葉を噛み締めながら自らの政道を顧みて自戒してきたのであった。キケヨはこれでアルデバランも終わりだと確信したのである。帝国の歴史そのものである壺を事もあろうに人に投げるとは。壺の言葉の持つ重みさえ忘れた皇帝に神の御加護などあるはずがない。キケヨは割れた壺の破片を涙を流しながら拾い始めた。皇帝達はそんなキケヨをせせら笑って宴会を再開した。
この壺の歴史は皇帝バラン2世がまだ皇太子だった頃まで遡る。彼は初代バラン皇帝の即位後に生まれた子供で、初代の建国の苦労など知らず腕白盛りの傲慢な皇太子であった。皇太子は事あるごとに壺に小便をして「雨漏りのせいで壺に水が溜まっているぞ」と女官を呼びつけて壺の清掃をさせていたのであった。当然女官達もそれが水でないことは分かっていた。しかしそんな事を皇帝や皇后に告げ口出来るはずがない。彼女達は涙に暮れながらこの悪ガキ盛りの皇太子の悪戯に耐えていたのである。しかしその悪事は程なく父のバラン1世の露見するところとなった。
ある日皇帝が目の前の壺を抱えたまま跪く女官を通り過ぎようとした時、強い小便の臭いがしたので女官に「何ぞ、このしとの臭いは?」と尋ねたのである。しかし女官は何も言わない。涙をためて跪いているままだ。皇帝は女官が抱えている壺を見て驚いた。これはかの統一戦争のときに民から献上された牛の壺ではないか。この壺には民の平和への願いが込められておるのだ。そしてそれは朕がこのアルデバラン帝国の宝として代々の皇帝によって継がれるべきものだと決め、皇太子が立太子するときに譲ったものだ。皇帝は壺に近寄り壺の中身を覗きそれが小便であることを確認すると女官にこう言った。「そなた壺を持ち出して何をしているか?」女官は耐えきれず号泣しながらこう答えたのであった。「殿下が壺に雨水が溜まったと仰せになり壺を洗えとお命じになったのです」
勘の鋭い皇帝はこれはあの悪童息子の悪戯かと激怒し女官を連れて皇太子の部屋に駆け込んだのである。部屋に入るなり皇帝は皇太子をこう怒鳴りつけた。「これ、太子よ。壺にしとをするとは何事ぞ?主はこのアルデバランが民たちの力で建国されたことを忘れたのか!その民にこのような悪事を働いていぢめるとは何たる不心得者ぞ!罰として壺の中のしとをかぶり、そしてその壺にこう刃で刻んで民に誓え!『もう悪いことはしません』、と!」
その後改心し皇帝になったバラン2世は父が建国した帝国を発展させ西の果てにアルデバランありと呼ばれる程の繁栄を築き上げたのだった。名君バラン2世の子供時代のこの挿話はアルデバラン帝国中期には民衆の間にも広く知られるようになり『小便と皇太子』『壺に小便』『小便小僧』などの童話にさえなった。バラン2世はその栄光の真っ只中においても幼き日の罪を忘れることはなかった。時折壺を眺めてはあの出来事を思い出し自らを省みるのであった。そしてとうとう王座の後ろに壺を置き、民は自分をいつも後ろから見ているぞと自分への戒めとしたのである。そして皇帝は晩年に後に皇帝バラン3世となる皇太子にこの壺を譲ったのだが、この皇太子は尿意を催して王座の後ろの壺に小便をしてしまい……。
小説の制作秘話:
先に紹介した『アルデバラン帝国興亡記』の作者の新作小説である。作者は『アルデバラン帝国興亡記』の大失敗を経てもアルデバランの世界を書くことを諦めきれなかった。作者のアルデバランへの想いはそこまで深かったのである。そこで作者は前作のように500年を一気に書くのは不可能だと考え今度は帝国の滅亡の数年間を書くことに決めた。アルデバラン帝国の500年間は作中の回想でまとめて書くことに決めたのである。そして前作の失敗を反省し人物の来歴を長々と書くのをやめた。最重要人物のキケヨさえ5000文字以内で収めるようにしたのである。しかし作者は今回は割れた壺の歴史について長々と書いてしまう。帝国の歴史そのものである壺の歴史を書くことで壺とともに帝国まで壊れてしまったのだと読者に感じさせようとしたのだ。しかし作者はまた長々と書きすぎてしまった。作者は初代から50世までのバラン皇帝の壺の挿話を書きたかったのだが、しかし2世の部分を書いたところで体力の限界がきてしまった。前回と同じ25000文字書いたところで作者はこれ以上書けないと観念し2019/06/02小説を中断した。
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