第15話 彼の為に

彼を乗せた電車が見えなくなるまで見送り続けた後、私は会社に向かいました。

仕事中も彼のことを思い浮かべるだけで心が満たされていくような気がして、

いつも以上に張り切ってしまう自分に驚きながらも、今日の仕事を無事に終えることができました。

帰宅後、夕食を終え風呂に入ると後は寝るだけとなったのですが、ベッドに寝転がってから中々眠れずにいました。

目を閉じれば彼の事を思い出し、胸が締め付けられるような痛みに襲われ、

それから逃れるように寝返りを繰り返した結果、睡魔に襲われる頃には日付が変わっていたのでした。

翌朝、朝食を済ませた後は着替えや化粧といった身だしなみを整えた後、髪を整えてから鏡の前で笑顔を作ります。

(よし!)

今日の私、ちょっといい感じ!

そう思ったら自然と元気が出てきました。

玄関を出ると清々しい朝の日差しに迎えられ、絶好のお出かけ日和となっていました。

うきうきしながら歩き始めたのですが、途中で見かけた桜の木に気付き、思わず立ち止まって見とれてしまいました。

その光景はまるで一枚の絵画のようで見惚れてしまうほど美しく輝いて見えたからです。

それからしばらくの間、余韻に浸って佇んでいると後ろから声をかけられました。

驚いて振り返ると彼がいたのです。

驚きで声が出せませんでしたが、それでも精一杯の笑顔を彼に向けて、

喜びを伝えようとしたその時、目の前が真っ暗になってしまいました。

(えっ?)

突然の出来事に戸惑いを隠せなかったのですけれども、不思議と恐怖心はありませんでした。

それよりも私の全身を包む温かくて優しい感触に包まれ、とても心地良く感じていましたし、

自然と笑みが溢れてくるような幸せな気持ちになりましたので、

むしろこのままずっとこうしていたいと思っていたのですが、

彼がゆっくりと離れてしまう気配を感じたので私は寂しさを感じてしまいました。

なので、思わずしがみついてしまったのですが、彼は優しく受け止めてくれたばかりか

頭を撫でてくれましたのでさらに強く抱きついてしまいますと彼が再び唇を近づけてきたことが分かりましたので、

私はそっと目を閉じて彼を受け入れる態勢を取りました。

やがてお互いの唇が触れ合った瞬間、私の胸は大きく高鳴り、全身が熱くなるような感覚に襲われました。

ですが不思議と嫌ではありませんし、むしろもっとして欲しいという気持ちになってしまいましたので、

私からも積極的に求めてしまいました。

彼もそれに応えてくれたのですが、 段々とエスカレートしていき、

最終的には舌を絡め合うような激しいキスを繰り返していましたので、

あまりの快感に頭の中が真っ白になりましたが、それでもまだ足りないと思っていましたし、

もっと続きを期待していたところ彼が口を離してしまいましたので少し残念でしたけど、

その代わりに耳元で囁かれた言葉はとても嬉しかったですし、同時に彼の愛を感じ取ることができました。

だからなのか自然と涙が出てしまい、その涙に込められた意味は分かりませんでしたが、

恐らく幸せのあまり零れ出たものなのでしょう。

その後は彼と手を繋ぎながら歩いていましたが、私の心の中はとても満たされておりましたし、

それが伝わっていたようで彼も笑顔になってくれましたので本当に嬉しかったです。

「行こう」

そう言われた時、私は緊張のあまり言葉が出てきませんでしたが、

彼が差し出してくれた手をそっと握り返すと優しく微笑んでくれて安心できました。

(今日は彼との記念日になるかもしれない)

そんなことを考えながら歩いている間に、目的のお店に到着しました。

中に入ると様々な種類のパンが並んでおり、どれも美味しそうでしたし、

何よりお腹が空いていたので早速食べてみることにしました。

どれも美味しくてあっという間に平らげてしまいましたけど、

もう1つだけ食べたいものがありましたので買って帰ることにしました。

その後は店内を見て回ったんですけど、やっぱり彼はかっこ良くて周りの人の視線を集めているのがわかりました。

(私も頑張ってオシャレしてきた甲斐があったな)

なんて思いつつ彼の後をついて行くといつの間にか別の店にいて驚いてしまいましたが、

アクセサリーショップだったので私を楽しませようと言う気遣いだったのでしょう。

彼の優しさが身に染みる思いでした。

その後、私は気に入った指輪を購入することができましたし、

彼も私の事を想像して選んでくれていたと知り、とても嬉しかったです。

(この想い、絶対忘れたくない)

そう思った私は、彼と手を繋いだまま歩いて帰りました。

家に着いてからもずっと彼は私のことを気遣ってくれたので本当に優しい方だと思いますし、

そんな彼だからこそ惹かれたんでしょう。

(もう離れたくないな)

そう感じた私は自然と身体が動いておりまして、気付けば彼に抱き着いていましたが、

嫌がる素振りも見せずに受け入れてくれたことが嬉しくてたまらなかったのです。

(やだ、どうしよう!? ドキドキしてきた!)

しばらく抱擁を交わした後、お互いに見つめ合った瞬間、

私は恥ずかしさのあまり目を逸らしてしまったのですが、彼はゆっくりと顔を近づけてきて、

そして、私の口に優しく触れてくれました。

(嬉しい!)

それがどれほど嬉しかったことか言葉にできませんが、自然と涙が流れたことを見れば伝わるかもしれません。

ただ、私を見つめる彼の瞳に吸い込まれそうになると、そこからは早かったです。

あっという間のキスでしたが、とても甘い味が口の中に広がりましたのでいつまでも味わっていたいくらい幸せな気分に浸れましたし、

お互いの想いを通わせたような気がしてより一層愛しさが増してくるような気がするのです。

(今日も愛してる)

そんなことを考えながら私は彼を抱き締め続けましたし、

彼も私のことを抱き締め返してくれた時は本当に幸せを感じずにはいられませんでした。

こうして、この日も充実した一日を送ることができたので満足していましたが、まだ終わりではありません。

夜は二人でベッドに横になっていましたのでドキドキしていましたけれども、彼は手を出さずにいてくれたようで安心できました。

「おやすみ、朋絵」

彼の一言で眠気が襲ってきたのですが、ここで眠るわけにはいきません。

だからと言って襲うようなことはできませんでしたけれども、

せめて手を繋ぐくらいは許して欲しかったのでそっと握り返しました。

それに応えるように彼も手を握り返してきてくれましたが、

それがきっかけでお互いが溶け合っていくような不思議な感覚に陥り、

心が満たされていくような感覚に包まれていました。

こうして私達は眠りについたのですが、翌朝はとてもスッキリした気分になれたのです。

その日の夜もとても幸せな時間を過ごさせてもらいましたし、

1日中ずっと手を繋いで歩いていましたので、彼の優しさを感じることができて本当に嬉しかったです。

帰宅時には彼がキスしてくれたこともあって、とても気分が良い状態でしたから今夜は頑張るぞと思っていたのですけれども、

残念ながら今日は会えませんでしたので少しだけ寂しく感じてしまいましたが、

後日会えることになりましたので、その日に備えて今から気合を入れておきます。

彼と出会ってから、色々と大変でした。

でも今は、そんなことどうだっていいくらいに、彼と過ごす日々が楽しく、刺激的になっています。

私はこれからも彼のことを心から大切にしていきますし、ずっと側にいたいと思っています。

もちろん彼も同じ考えを持ってくれているはずなので、不安はありません。

これから先も、お互いに支え合いながら素敵な日々を過ごしていけたら良いです。

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