ホムンクルスはかもめの夢を見る
藤原埼玉
プロローグ
私の最初の記憶は、夜だ。
不愛想な馬車の御者と別れ、あなたが私の手を引き闇夜の森の中を導いていく。冬の外気は冷たくどこか清新で、試験管から生まれたばかりで歩くことも覚束ない私の小さな身体は幾重にも外套に包まれ、外套の隙間から私の手を握るあなたの手は熱く、少し痛いくらいにその力は強かった。
そんな夜だった。
「……君の名前は
あなたはまるで自分に言い聞かせるように、口の中でエヴァンジェリンと繰り返していた。
「俺は決して君を穢さない、世界は決して君を穢さない。この街が君の初めての街でありそして最後の街だ、俺にとってもそうだ。この街は…幸福な婚姻そのものだ」
あなたは立ち止まりもう一度エヴァンジェリンと唱えた。何かに縋るように。あなたは言う、見ろエヴァンジェリン!私は顔を上げた。
「いつかこの身体が朽ち果てるその時まで、俺達はここで幸せに暮らすんだ…」
闇夜の中浮かんだ港町の灯りは確かにあたたかかった。
それなのにあなたの横顔はどこか何かを恐れているようだった。
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