ちょっと変わった人達の話

不皿雨鮮

シックスセンス ~超能力者~

 もし、他とは少し違う特殊な『何か』を持っているなら、どうなるのだろうか。

 ――本人の人生は。

 ――周囲の環境は。

 彼、宮永京の場合は、面倒臭いの一言に限る。

 彼が持つ特殊な『何か』とは、あらゆる超能力の劣化版のようなものだ。

物体を少し動かしたり、箱の中身を触れずに見れたり。

便利に思えるが、本人曰く――「物を動かすなら手で動かしたほうが早い。中身を知りたいなら開ければいい。こんなものを使うよりは効率がいい」――とのことだ。

 かなりの集中力を要し、例え物体を動かしたとしてもせいぜい十センチほど。使った後の精神的な疲労を考えれば、使わない方が利口だと断言出来る。

 その為、京はソレを決して傲らず、むしろ自嘲するような口調で語る。

 しかし、周囲にとって京の態度は一切合切、全くもって理解が出来ない。

 例えば彼女、大理里奈がそうだ

「あなたは一体どんなインチキを使っているのですか?」

 放課後、家に帰って何をしようかと考えていた京に、里奈はそう尋ねた。

「お~、いきなり失礼だな」

 何の脈絡も、接点もない、二人の最初の会話にしてはかなりぶしつけな里奈の質問だったが、京にとってはいつものこと過ぎる。

「すぐに、自分の似非超能力だって分かるぐらいには、自覚しているんですね。嘘はもっと上手に吐かないといけませんよ」

「俺にそんなことを聞くのは、ソレぐらいしかねぇんだよ。でも、残念ながらインチキじゃねぇんだよね。インチキだったらどれだけ嬉しいか。いっそのことお前が証明してくれよ」

「えぇ、もとからそのつもりです。あなたのインチキを暴いて、その伸びきった鼻をへし折りに来たんですから」

「へいへ~い。それで、どんなことを俺にご所望で? 念力、憑依、透視から何まで、どれも劣化版をお見せ致しましょう」

 京は芝居がかった口調で、里奈を挑発する。既に、京の遊びは始まっているのだ。

「透視をしてもらいます。この箱の中身を、言い当ててごらんなさい」

 そう言って里奈が取り出したのは、重量感溢れる木の箱。細部にも細かい装飾がなされており、そういうものに詳しくない京でも、それなりの高価な物だと分かる。

「……なるほどな。これは、パズル形式の奴か。何かの絵を作れば箱が開いて、中身を拝見出来る、みたいな」

「へぇ、察しがいいんですね。それとも私の心でも読んだのですか?」

「心なんて読んだら、お前の考えているネタが全部バレることになるんだが?」

「……随分と余裕なことで」

「ところで、お前はこの箱の中身を知っているのか?」

「えぇ、勿論。それは私にしか解けない特別製の箱ですから、逆に言えば私しか知りません」

「んじゃ、まぁ、やってみますか。ちょっと集中するから、五分だけくれ」

「分かりました」

 京は箱を三六〇度、四方八方、全てを眺め始める。その間、京は箱に全神経と五感を集中させている為、周囲の変化には一切気がつかない。

その間、里奈はずっと、京の様子を観察していた。

 淡々と箱を回し続ける作業を繰り返し、丁度五分後。

「うし、解った」

 手を回していただけで箱を開けたりはしていない、と里奈は確認した。

「それでは、箱の中身を言ってもらいましょうか」

「あ、ごめん。違う、違う。この箱の解き方、だよ」

「……え?」

「だって、お前言ってたじゃん。「箱の開け方を自分だけが知っていて、この箱に入れた物は自分しか知らない」って」

「えぇ、そうですわ。だから、箱の中身を透視すればあなたの透視能力は本物だと認めると」

「箱の中身はお前しか知らない、そして、箱の開け方もお前しか知らない。なのに、こっちが一方的に答えても、箱をお前が開けない限りは例え正解でも嘘ってなるよな? それってどっちがインチキなんだろうか」

「……面白い考えですね」

「まぁ、まさか『何も無い』物を透視しろなんていう無茶ぶりだとは思わなかったけど」

「そんな訳がないでしょ! ほら、振ればこんな風に音が鳴るんですよ!」

「それは箱の細工だ。ちょっと貸してみ」

 半ば強引に箱をひったくって、箱の装飾を動かす。徐々にその装飾が幼児が書くような絵へと変化していき、最後にカチッという音が鳴る。開け方の知らない京は、自力で解読してみせたのだ。

「これは、お前が子供の頃『箱の開け方を知っていて、この箱に入れた物は自分しか知らない』じゃないか?」

「……ッ」

「図星か。こんな箱を作れるぐらいなんだから金持ちなんだろう、子供の頃にどこかへ旅行でも行った時に何かを入れたんだろう。子供の考えることなんて、意味不明だからな。おおかた、その場所の『空気』とか」

「…………」

 はっ、とした顔になる。里奈の脳裏にそんな思い出が浮かび合っているのだ。

「そして、お前は俺みたいな力を嫌ってはいるものの、ソレに頼るしか無かった。だから挑発的にして、何とか知ろうとしたって感じか」

「……凄い、ですね。本当にその通りです」

 そう言って里奈は箱を開ける。中身は当然のように空だった。

「あなたは、本当に……」

 信じたくないという今までの気持ちと、信じるしか無いという気持ち、二つの気持ちが混ざった目で里奈は京を見つめる。

「まぁ、ご覧のとおりで。っと、やっべぇ、早く帰らないと」

 そう言って京は教室を急いで出て行く。

「超能力って、本当にあったんだ……」

 出て行く京を眺めながら、呆然と呟く。

しばらく、その場に佇んでいた里奈だが、すぐに正気を取り戻す。周囲を見回し、鞄を取る。

「……ん?」

 鞄の隣に、二つの綺麗なビー玉があった。

「……あ」

 そして、再び当時の思い出がよみがえる。その後、ビー玉を入れている自分自身を。

「あの、似非超能力者ぁ……ッ、騙されたぁ……ッ!!」

 そんな絶叫が校舎全体に響いた。


「さて、と。これで、俺は似非超能力者ってことになるな」

 計画通り、といった顔で里奈の絶叫を聞き流しながら、校門を出る。

 ――ところで。

箱の中には元々、ビー玉が入っていた訳だが、一体、いつ、どうやって、京は取り出したのだろうか。

 そもそも、京はどうして、さっき話したばかりの里奈の思い出を確実に言い当てることが出来たのだろうか。

 京は超能力の劣化版を使える訳だが、超能力はいくつか種類がある。

――例えば、テレポーテーションやら、サイコメトリーやら。

異常なまでの疲労感を感じながら京は、のんびりと帰路についていた。

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