本編とはあまり関わりのないお話
稜宮に伝わる昔話
まだ大地に草木の芽吹いていた頃、今の
「どこに行っていたのだ」と父が泣きながら問えば娘は、「どこにも行けない場所に連れて行かれました。もう私はあなたの娘とは呼べないのです」。
そう言う娘の顔をよく覗けば、血のように赤い縦線が顔中に縞々に塗られているのだ。
「その顔は」とまた父が呆然と問うと娘はわっと泣き出してしまった。思わず抱きしめる父親に、娘は問う。「私が人に見えますか?父上には私が昔と変わらぬように見えますか」と。
父親はそこで初めて娘が失踪直前と全く変わらぬ容姿をしている事に気がついた。赤い線以外、娘は歳も取っていない。
だがそんなものは父親にとってどうでも良いことだった。
「お前はいつまでも私の娘だ。それがなんだ」と抱きしめる手に力が入る。娘はその手をゆっくりと解いて、寂しげに笑う。
「父上にそう言ってもらえて私は満足です。これ以上はいけません、私が駄目になってしまいます」と、そう言い残してまた井戸の中へと消えていった。
急いで父親が井戸の中を覗いても中に娘の姿は見えなかった。それから父親が娘を見ることはなかった。
この話から、現在この娘のような容姿をした存在の事を彼女の名を由来として夕能と呼ばれるようになったという。
(
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妖術の都として栄えてきた稜宮に古くから伝わる昔話のひとつで、最も出回っているものがこの形であり、他には娘の名である『ユーノ』を漢字を当てはめて夕能にしたというものや、妖術の呪文の一文である"ユラゥナ"(祝福するという意味を持つ)から来たのでは無いかというものもある。
また、この娘が本当に今言われる夕能の定義に当てはまるかは未だはっきりとしていない。見た目は夕能そっくりだが、それ以外の言及はない。
現在、よく知られている夕能の特徴(稜宮の人間には周知だろうが、他地域の人間には馴染みが薄そうなので解説する)である『処女・童貞である』、『不死の存在である』という記述がされたのは著者不明の『
夕能とは、一体何なのか。
いまだ詳しいことはわかっていない。
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