――

アフリカの無文字社会に実地調査に赴く。

そこはかつて、フランスの植民地だった。

そのため、公用語はフランス語だ。

しかし、その無文字社会の「神話」は、かつての先住民の言葉で語られる。

フランス語も先住民の言葉も、頭に入っている。

広場に、人々が集まった。

先住民たちと挨拶を交わす。

もちろん、これから語られる「神話」の記録を取ることも、許可を得た。

当時、テープで録音しなけらばならず、それを節約するため、「神話」の本編だけを記録しようと考えた。

人々の熱気が広場に充満する。

疎外感と共に、興奮を覚える。

太鼓が鳴らされた。

「神話」が始まる。

前奏部分を聞きながら、「神話」本編が始まるのを待った。































































そのまま、太鼓の音だけが流れ、人々が帰り始めた。

戸惑っていると、太鼓をたたいていた青年に声を掛けられた。


「どうだい? いい記録が採れたか?」


さらに戸惑う。

この社会の「神話」とは、太鼓の音で共有される「物語」だと知ったのは、しばらくしてからだった。


人間にとって、言葉は普遍的だ。

しかし人間にとって、文字は普遍的ではない。


元来「物語」は、「音(声)」なのだから。





ある研究者の体験談より。



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