第4話――おっさんやはりヘイトを集める
世間の踏破者探しは、会見を行った事で一段落を見せた。
それはあくまでも探すという行為が終わっただけであって、今度はワイドショーやニュースで物知り顔の芸能人やら、いつの間にか自称するようになった専門家や研究家が、おっさんたちを勝手に分析したり、責めたりするようになっていた。
それらは会見にて、ローガスが言った、
「人類に試練を与えると言われたのに、なぜ私たちだけがその責を負うのか?誰もが同じ力を得る可能性を持っているのに、なぜ其れをせずにたった1人の人間に押し付けようとするのか?」
その一言に尽きるだろう。
ローガスはとても怒ってた、人間というものに怒りまくっていた。
――残念な事ながら、世の中の人々が口々にしているある言葉は、おっさんが初めてテストプレイヤーにと選ばれた時に自称していた言葉と同じだった……救世主・ヒーロー・勇者である。まぁ、おっさんはそんな事すっかり忘れているけれど。
「どうしてもというのならば、人類を代表してダンジョンの全てを踏破しましょう。ですがそれを望むならば、それなりの対価を下さい。人類の代表に敬意と感謝を込めて、各国の国家予算の……そうですね、50%をまずはお振込み下さい。そしてこれより私たちの言葉に全て従うようにしてください」
なんて事を言ったりしたものだから、「何様だ」なんて事にもなっている。
全然出来る執事じゃなかった、世間を、世界を煽りまくっていた。
当然それに対し批難論調になるのも仕方がないといえば言えなくもない。
そしてその批難はマスコミだけでは無い、あらゆる一般人もが矛先を向けた。インターネットの巨大掲示板には全てのプライベート情報が晒され、無言電話、嫌がらせの手紙などが送り付けられたりしていた――デリバリーフードの勝手な注文は嫌がらせにはならずに、おっさんたちは喜んでいたのだが。
また、当然の事として世界に異変が起こった日、マラソン大会で驚異的なタイムを弾き出したのが同じおっさんだとも話題になった。だがそれはあくまでもダンジョン発生前の出来事である為に、大きな謎としてしか取り上げられる事はなかった。
「テストをクリアした為」という頭に鳴り響いた謎の声に着目した者も少なからずいたが、どんなテストだったのか?がわからないので、それ以上に話が進むこともない。
会見にはおっさんの姿のローガスと、新木が出席していたにも関わらず、嫌がらせや批難は全ておっさんに集中しているのは、話していたのがおっさんの姿のローガスだけだった為か、それともビジュアルの為だろうか……
日々世間があーだこーだと騒ぐ中、おっさんの自宅でローガスが顔を顰めていた。
「問題が起こりました」
そう切り出したのはある日の夕食時である。
「問題?……マロンちゃんに何か起きたの?」
「マロンちゃんとも相変わらず仲良くしておりますので大丈夫でございます。私の事ではなく、御二方の親族に付けました護衛なのですが……」
ともとはどういう事なのだろうか……
一体この執事は何人のメイドをその毒牙に掛けているというのだろうか?聞くのが恐ろしい……いや、嫉妬で突っ込んで聞けないおっさんである。
「護衛がどうしたの?」
「ええ、それがですね、昼夜近くで見守らせており、これまで何人かの不埒な者を捕らえはしたのですが……」
ローガスにしては珍しく、何やらハッキリしない、言い淀んでいる。
「おーありがとう。それが何の問題なの?」
「いえ、それが彼らも不審者として通報され、職務質問を受ける事が多々起こりまして……」
「えっ?」
「超不審者にゃ、変な格好してウロウロしている挙句にワインを瓶で飲んでるにゃ」
それは確かに不審者だ……いや不審者どころじゃない、明らかにオカシイ。
「変な格好とは?」
おっさんの頭の中に浮かんでいるのは、タータンチェックの服装でパイプをくゆらせている姿である――だいたい護衛と言っているのに、探偵を思い浮かべるのか?それにイメージが古い、今や探偵といえば死神小学生の方が主流だというのに……さすがおっさんである。
「こちらの世界に合わせた服装をと思いまして、それぞれ好みもあるでしょうから幾ばくかのお金を渡して、各々に購入させたのですが……」
「それが変な格好なの?冬なのにタンクトップとか?」
それはお前だ、年中のほとんどをTシャツ姿で過ごすおっさんよ。
「いえ……全ての者が同じような服装になりまして」
「1箇所に集まっているんじゃなきゃ平気じゃない?」
「家庭によっては、近くに3〜5人集まっている事も多いのです。そして彼らが好んだのは、少し古いヒップホッパースタイルなのです」
つまりだぼだぼな服装で腰パン、金や白金のチェーン、ブーツやスニーカー、バンダナの上にキャップを被っているといった姿ということである。それが住宅の前に集まり、片手にはワインの瓶……うん、通報される事間違いない、違和感以外ない。
「そして警察官が近寄ると、当初は「人間風情が黙れ」等と申したり、牙を見せて威嚇したり等しまして……いえ、それは躾したので今はもう大丈夫なのですが、最近は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い……またそれも問題になっているようなのです」
テレビでは1コーナーのちょっとした話題として扱われていた。
どの番組も朝から晩まで、おっさんたちの話題しか話していない為に、テレビをつける事がほとんどなくなっていた為に気付くのが遅れたようだ。
「それは……服装を替えさせたらいいだけじゃなくて?」
「それが躾してもしても、頑なに服装だけは変えようとしないのです」
ローガスの真っ黒な服装も万能では無いようだ……少し安心するのは何故だろう。
ただちょくちょく出てくる躾という言葉に、そこはかとない恐怖を感じるのはおっさんだけではないようで、この場にいるアルと新木も顔を青くしていた。
「よし、どっちみち外にも出れないし、とっとと部屋付きダンジョンクリアして神様に会ってお願いしよう」
神を認識出来なかったおっさんが言っていい言葉とは思えない……
そして神とは、そんな「ちょっと隣町の従兄弟に会いにいく」的なニュアンスで会うものでもない。
その上願いを叶えて貰えると思い込んでいるという……図々しい事この上ないおっさんである。
「会えるのであればそれがありがたいかと」
「外に出にくいから暇にゃから、行くにゃ。それにアルもお願いがあるにゃ」
「よし行こう」
いそいそと用意し始める3名。
だがここには新木もおり、彼女こそ外に一切出る事が叶わない者である――おっさんには嫌がらせの電話手紙がひきりなしに来るのに対し、新木にはなぜかファンレターやテレビ局からの出演要請、芸能事務所からのスカウトが絶え間なく届いていたのだ。
それ故に拗ねた、拗ねまくった。
「私だけひとりぼっち、どこにも行けずに引きこもりのぼっち……」
ならば一緒にとダンジョン探索となったが、3人に比べて格段に落ちるレベルである新木。
再び降臨するアル&ローガスの鬼コーチ。
バージョンアップ直後におっさんが受けた、戦い方指導である。
その様子をおっさんは悲しげ……いや、嬉しそうに見ていた。同じ体験をする仲間が出来て、かなり嬉しそうである。
――2週間後、新木はレベルアップと共に戦い方も一変し生まれ変わった……若干おっさんへの愛にも変化が生まれたとか生まれていないとか。
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