第23話ーーおっさん戯れる

「もう俺ここで暮らそうかな」

「「「そうしましょう」」」


 おっさんは湖に浮かぶ小島の上でぼーっとしながら呟いた。

 横にはアルやローガスではなく、3人の美女。肩まである白銀の髪を一つに纏め、大きな胸、くびれたウェスト、長い足……目鼻立ちはしっかりとした西洋美女だ。全員、お揃いの薄青のサミュエルパンツと、貝殻で出来たブラを付けている。

 彼女達は人間では無い、おっさん待望のマーメイドさんであった。


「ここに住んじゃえば?」

「一緒に暮らそうよ」

「地上世界なんて他の人達に任せときましょ」

「それもいいな〜」


 湖に足を漬けちゃぷちゃぷと音をたてながらの優しい言葉に、おっさんの心はめちゃくちゃ動いてた。そして同時に顔はいつになくだらしなく緩んでいる。


「これね、水の中でも息が出来るようになる水棲スキル。すっごい貴重なのだけど上げる」

「そんなのあるの?」

「あるよー!マーメイドクイーンしか作れないやつだよ」

「そ、それ4つないかな?」

「いくら身体が大きくたって、1つで十分だよ」

「友達もいるからさ、3人も連れてこようかなって」

「ふふふ、じゃあ上げるね」


 おっさん思わぬ形で思わぬスキルをGETである。一応ここにはいないアルとローガスの分も貰ったが、あまり渡す気などなかった。だって憧れのハーレム状態なのだ、2人を連れてきたらそれも叶わない所かせっかくのマーメイドもモンスターとして処理されてしまうかもしれない――遂にモテ期キタと喜ぶおっさんにそんな選択肢がある訳がなかった。



 なぜおっさんが1人でこんな所でマーメイドに囲まれ、だらしない笑顔を撒き散らしているかといえば……

 本日はダンジョンの探索はなしとの予定だったのだが、朝食後にアルとローガスは2人共に満面の笑みを浮かべデートに出かけていった。新木はおっさんと二人きりとなり「どこかへ行こうと誘おうか」等と顔を赤くしてタイミングをはかっていたのだが、そこはおっさん「あぁ、あんなに顔を赤くしてるなんて今日は不倫相手とのデートの日か」等と勘違いした。


 いじけ気分でどこかに1人で出かけようかと思ったが、特に出かける場所もない。アイテムボックス内の補充も必要ない。すなわち無職で無趣味のおっさんにはお出かけする場所も特になかった……

 そこでおっさんは考えた、アルとローガスと出会って早数年、そろそろ新たなる種族と出会ってもいい頃ではないかと。

 そしてやってきた61階層、一面湖になっており、所々に小島がある場所だった。現れる敵はデカい蟹やサメ、亀、スッポンなどといったモノがうじゃうじゃといたのだが、寂しさからの八つ当たりで蹂躙して62階層へ。本来ならば少ない足場と、そこに居座り迫る敵が多いために戦いは苦労する事になるだろうが、なんせ今のおっさんは空を単独飛行可能なのだ、足場等必要なく戦闘出来る為余裕だった――背中は無残にも2つの穴が空いているが……

 62階層へ移動しても飛行しながら蹂躙し続けるおっさん、粗方倒したと判断し移動しようとした時だった。


「ありがとうっ!」「救世主様」


 なんて女性の声が聞こえてきたのだ。

 その声の先に視線を向けると、件の美女3人……と言ってもその時はまだ下半身は魚状態だったのだが、手を振っていた。

 フラフラと近寄っていきそうになるも、はっと気付いて鑑定すると<レイクマーメイドメイド Lv153 >が2人と、<レイクマーメイドクイーン Lv191>だった――待望のマーメイドという種族に、おっさんはスキルまでしっかりと確認する事なく、喜び勇んで3人が集まる小島へと上陸したのである。


 どうやら話を聞くと、ここでのんびり日光浴をしていたら増えるモンスターに囲まれて絶対絶命だったところをおっさんに救われたとの事だった――ここまでの階層の事を考えると、バージョンアップ前のダンジョンとリンクしている。そうなると前回この階層でマーメイドになど会わなかったのに、都合よくモンスターに襲われているのマーメイドに会うなどおかしい事なのだが、浮かれ気分のおっさんは全く気づいてもいなかった。


 そして冒頭の状況へと戻る。


「ねぇねぇ、私とここで暮らしましょ?結婚はしている?」

「いや、してないけど」

「嘘っ!こんないい男を放っておくなんて地上のメスは目がおかしいのかしら」

「私達は愛人でいいからね」

「でもこんな太ってるけど……」

「ふふ…………素敵じゃない」


 どうやらマーメイド達には肉に見えているようである……だがおっさんはアルやローガス、新木のリア充振りへの妬みから、愛人という言葉にドキドキしまくっていて気付きもしなかった――相変わらずのヌケ具合である。


「もし望むなら3人で色々してもいいのよ」

「さ、3人で!?」

「もちろん、クイーンである私が1番だけどね」

「「私達はクイーンのお零れをいただければ」」


 ピュアなおっさん、言葉だけで顔真っ赤である。「初体験が3人で……」などとブツブツ言いながらゴクリと喉を鳴らしてもいる。


「もう待ちきれないわ」

「早くしましょ」


 そう言いながらおっさんに迫る3人の美女。その視線は下半身に向いていると感じたおっさんは、「なんて肉食美女」なんて更に顔を赤くしていた。その妄想は以前に見たアダルトなビデオ内容を彷彿とさせていた――悲しい事に真実は、下半身の上に乗っているお肉に視線が注がれていた。


「ちょ、ちょっと待ってて!必要なもの持ってくるから」

「えっ?」

「どこに!?」


 おっさんは慌てて部屋へと転移した。

 必要なものとは薄さが売りのゴム製品であるアレだ。逸る気持ちを抑えながらも、急いで薬局へと向かうおっさん……だが近くのよく行く薬局やコンビニには行かない、知っている顔がレジに居たら恥ずかしいというピュアさをいかんなく発生させていた。

 自宅から2駅ほど離れた大型薬局に到着したおっさん、大量の種類に圧倒されながらも1番薄さの物を3つ手に取りレジへと向かう……向かうが並ぶ人の列に近くをウロウロしていた。人並みが履けるのを待っているのであるが、ふと手にアレだけを持っている事にも恥ずかしさを覚え、カゴに無駄に洗剤やらトイレットペーパーやらを詰め込んだりしていた――どう見ても完全に不審者だった。


「お、お願いします」


 ようやく人並みが一段落ついた所で、目安を付けていた男性レジへと向かったおっさん、顔を更に赤くしている上に声が上擦っていた――レジのバイトのお兄さんはドン引きしていたが、たまにそんな客もいるのだろうか普通に会計を済ませてくれたのはおっさんにとって救いだっただろう。


 何とか目当ての物を買えたおっさんは、物陰から部屋へと転移する。


「どこかに出かけてたにゃ?」

「お帰りなさいませ」


 そこにはすれ違いで帰宅していたアルとローガスが居た。


「あっ、うん……ただいま。そうだ!これ貰ったから使って」


 渡したのはもちろん水棲スキル玉だ。


「貰ったとおっしゃいましたか?どなたからでしょうか?これはマーメイドクイーンしか作れないはずですが」

「そうそう、本人から貰った」

「どういう事ですかな?」


 もしかしたら彼女達の気が変わってしまうかもしれないと、焦りながらもローガスの質問に本日の出来事を伝えるおっさん――もちろん嫉妬からの探索や、これから起こる3人とのピンク色の話は省いていた。


「失礼ですが……もしやとてつもない美女でございましたかな?」

「えっ!?……ま、まぁ……そうかもね」

「ふむ……アル様……」


 何やら1人納得し、アルの耳へと顔を寄せ何かを呟くローガス。


「保様は幻惑魔法と魅了に罹っているようで御座います」

「えっ?そ、そんな事ないでしょ」

「クリアにゃ!」


 ローガスの言葉に動揺するおっさんに、アルの手から光が溢れ、身体へと吸い込まれていった。


「これで解けたはずで御座います……さて61階層から62階層へと向かってみましょう」

「えっ?俺一人で行きたいんだけど……」

「もし私が不要でしたら直ぐにアイテムボックスの中に収納して構いませんので、まずは向かいましょう」


 3人で行ったら夢のアレが遠のいてしまうと同行を拒んだが、ローガスの言葉にそれもそうかと納得し向かう事としたおっさんだった。


 そして辿り着いた62階層湖上小島、そこに居たのは……耳は大きく尖っており口は裂け、目は4つ、上半身は人間そのものだが下半身はタコのように8本の脚に吸盤、それをウネウネとさせていた。


「もう〜どこ行ってたのー?」

「お友達連れてきてくれたのね」

「早くしましょ」


 どうやら目当てのマーメイド達の真の姿がそれであった模様である。


「そ、そ、そ、そんな!?クソー!俺の純真を弄びやがって」

「マーメイドとは適わぬと思った敵を惑わせ油断させ、自ら食料として身を差し出すようにするのが得意とするのでございます」

「ユルサナイ……コロス」


 おっさん激昂。

 また1つ、ピュアなハートに傷が出来た瞬間でもあった。



 その日65階層までの湖全ての水は干上がった……




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る