第22話ーーおっさん告白される
「あぁ結婚式か〜いいなぁ〜」
おっさん、アル、ローガス、新木の4人でリビングにてお茶をしているある昼間の事だった。世の男性が彼女が買ってくると恐怖を覚えると噂される、分厚く付録付きの結婚情報誌のCMが流れた際に、最近当たり前のようにおっさんの家に入り浸っている新木が呟いた。
ちなみに新木の自宅はおっさんの右隣、ガインミルカ夫妻の自宅は左隣に移り住んでいる。ダンジョンから15分という事で、スタンピードを怖がった住民が近隣からどんどんと引越していっている為に家賃が下がるどころか、おっさんが居を構えるマンションはガラガラ状態である。
朝食は全員がおっさんの家に集まりとり、昼食はそれぞれが思い思いに、夕食はまたおっさん宅でといったように、何故かおっさんの家を中心にして生活は成り立っている。
新木の呟きにすぐさま目配せをしあったのはアルとローガス、いよいよ決断したかと新木の気持ちを応援していた。2人はこれまでの事を鑑みて、おっさんの心が時折不安定なのは余裕がないからだと判断し、新木が寄り添ってくれるならマシになるのではないかと期待しているのである。
呟いたはいいが、顔を真っ赤にしておっさんの反応をチラチラ伺いながら待つ新木。その目線の先の男はというと……何故か眉を顰め、そして何かを決断したかのように新木の方をしっかりと向いた。その様子に3人は息を飲んだ、もしやダメなのかと……一途なる想いは届かないのかと。
「新木さん、セクハラじゃないからね?訴えないでね?ちょっと聞いていい?」
「……はい、大丈夫です、訴えないです」
「彼氏さんはまだ離婚してくれないの?」
「「「えっ?」」」
「歳上の妻子ある男と不倫関係にあるんだよね?慰謝料とかの問題で揉めてるの?もしあれだったらお金貸すよ?」
「えっ?ちょっ……」
「3LDKの部屋に1人引越してくるからいよいよかと思ってたけど、まだだったんだね」
おっさん相変わらず大いなる勘違いをしていた。
どれほどの悲しい言葉が出てくるかと覚悟していた新木、あまりにも的外れな話に呆然としてしまっていた。
「俺、結婚はしてないからアレだけど、掲示板やまとめサイトで色々見たから相談くらいのるからね」
おっさんが好きなのは浮気された男が慰謝料をぶんどるものが好きだったりするので、この場合は全く当てはまらないのだが……
「ちょっ!ちょっと大磯さん?」
「あっ、言い難いよね……大丈夫、俺は探偵にも秘密は守るから」
何故かドヤ顔のおっさん。
新木の一日の行動を考えてみれば、他の人間と会ってる暇もないとわかる事なのだが……そこはおっさん、毎日のように新木が入り浸っているのはカモフラージュだと信じて疑っていないのである。思い込みは全てを狂わせる――まぁいつもの事である。
「そういえばアルは結婚とかどうするの?」
「セクハラにゃ」
「ご、ごめんなさい」
「まぁ、彼氏と話してるけど結婚は当分考えてにゃいにゃ」
「「えっ」」
アルに彼氏が存在するという事に驚いたのはおっさんとローガス。遂に犠牲者が出てしまったというのか……
「そ、それはどちら様で御座いますかな」
「人?猫?ケット・シー?」
「……そんな事知ってどうするにゃ」
「いや、ちょっと気になって」
「プライベートにゃ」
アルさんの口は固いようである。ケット・シーは発見されていない事から、きっとどこかの猫なのだろう……そして多分子猫。
ローガスは新木が驚いていない事に気付いたが、それはアルの恋愛事情を知っているのか、それともおっさんとの遣り取りから復活出来ないでいるのか判断がつかずにいた。
「ローガスは?」
「えっ?あっ、あぁ私で御座いますか?お恥ずかしいお話ですが、既に2度ほど結婚もしましたので、もう新たに結婚は……」
「「「えっ?」」」
「け、結婚してたの?」
「2回とも死別となってしまいましたが……」
「あっ、ごめん」
「いえ、お気になさらず。今はマロンちゃんとたまに会ってデートする程度で結構で御座います」
「ふ、ふーん」
まさかのバツ2……しかもいつの間にかメイドカフェの女の子とプライベートで会う仲となっていた。
ローガスにアル、不倫をしていると思い込んでいる新木、3人が皆幸せそうであるとおっさんはギリギリと歯ぎしりをしていた。
「た、保はどんにゃ子が好きにゃ?」
僻み妬みから若干目が据わりつつある事に気付いたアルはおっさんに問いかけた。これは新木へのサポートの意味を含んでいる。
「うーん……」
おっさんは悩んだ――フリをした。
ハッキリと言えば理想はある、あるのだがここで素直に言うべきかどうかが問題なのである。「胸が〜」と言ったらセクハラ案件であるし、「歳は〜」などと言い出したらロリコンだなんだと非難されそうで怖かった。
「うーん……」
「にゃんにゃ、いえにゃいにゃか?もしかして……ぐふっ、男が好きにゃか」
「それは違うっ!い、いや同性愛を否定する気はないよ?ないけど俺は女の子がいいかな」
「じゃあ好みを言うにゃ」
年齢は若めがいい、胸は大きくもなく小さくもなくがいい、顔は可愛くて性格は優しくて……と身の程知らずの願望を抱くおっさんではあったが、そのままを言うだけの愚かさは持っていなかった――実はほんの少し成長はしているのである。
「俺なんか贅沢を言える立場じゃないから……」
「誰でもいいにゃ?」
「そこに愛があればね、愛が」
愛とか恋とか、一方的な経験しかないくせにドヤ顔である。
「わ、私大磯さんの事好きです!」
遂に新木は直球をおっさんに投げつけた。ソファーから立ち上がり、真っ直ぐ目を見ての真剣告白だった。
新木、アル、ローガスがおっさんの返事を固唾を飲んで待つ……
「えっ……あっ、ああありがとう」
何故かおっさんはぎこちない笑顔を浮かべていた。
おっさんはこう感じていた、幸せの欠けらも無いぼっちな中年男に気を遣って貰った、相手がいない悲しい男だと哀れに思われているのだと。
「新木さんは優しいね……」
「えっ?」
「そりゃどんな素敵な奥さんがいても惹かれるよね……」
「違いますって」
「あっ、新木さんから押しかけた感じなんだ……意外と積極的なんだね」
「だから違いますって」
「うん、気を遣ってくれてありがとうね……ちょっと出かけてくるね」
新木の話を聞かずに思い込むおっさん、1人ウンウンと頷きながら部屋付きダンジョンへとふらりと外へと出かけて行った。
残された3人はその後ろ姿に哀愁らしきものを感じながら見つめていた……
「違うって言ってるのになんで……なんで不倫……」
「にゃから言ったにゃ、もう無理矢理襲うしかにゃいにゃ」
「でも……」
「どんにゃオトコもイチコロになる方法があるにゃ、アルもそれで……くふっ」
「「えっ」」
アルさん、やはり遂にやらかしていたようである。どこの飼い猫、野良猫なのか……飼い主が怒鳴りこんで来ない事を祈るばかりである。
「わ、私めが保様のお気持ちやお考えを探っておきましょう」
「よろしくお願いします」
アルが変な笑い方をし出した事に、引き攣った顔でそれを見るローガス。新木も驚いている所を見て、彼女は知らなかったんだとどこかで安心感を覚えていた。
その頃おっさんは……海辺で1人膝を抱えて、目を血ばらせていた、人魚を必死に探していた。
帰ってきたのは次の日朝だった、身体中に潮風を纏い鱗まみれになりながら……半魚人のドロップを手に持って。
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