28 紳士
いつ何時も紳士であれ、というのは私の在り方の一つの支柱である。また、永遠の憧憬でもある。それは私の貴ぶ理性、礼節、知性、品性、それらを内包している。…
重要なのは、紳士たることが善か悪かなどという問題ではない。例のごとく、私にとってその表象そのものは大した意味をもたない。表象をみるだけでは、「ただそれがそこにあるだけ」である。それではあまりにも味気なかろう。私はここで、紳士の美しく仕立てられたスーツを剥ぎ取らねばならぬ。
私の持つ『紳士』は、対外的にある強制力を持つ。それはすなわち、紳士には紳士的態度で接せよ、という受動的な、そして一定の礼節を前提とした強制力である。これはある種の束縛を周囲に強いる。私のそれは、それそのものに対する認識を伴う以上、無意識下の、善良で無垢な行動の結果として生じる副産物などではない。
スーツの下にあるのは、ただの狡猾な打算である。
畢竟、私は周囲に紳士(あるいは淑女)を強制したいがために『紳士』たるのである。無論、その強制を逃れるもの、見落とすもの、無視するもの…それらを、私が完全に我が生存圏内から除外することは改めて言うべき事柄ですらない。それは私の『紳士』が、確かに純粋な憧憬も根底にあると言えど、先述した強力で狡猾な打算を多分に含んでいるためである。…
当章は、『紳士』を表象として取り扱ったものの、私の在り方、特にその対外関係の打算的二面性を表す非常に根源的な思索である。
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