第108話 回って止まって、一休み

 並んで時間になるのを待ち、普通に並んでいた人々を追い越すようにして列は動き出していく。


 季節が季節だ。暑苦しい夏と比べれば、時計の短針が半分を回った段階ですっかり暗くなっている。けれども、遊園地の中では人々のざわめきが消えることがない。


 周りを歩くのは、やはり男女のカップル。逢い引き最中の奴らには、周りのことなんぞは頭に入ってこない。何かに夢中になる度に、視野が狭まる。そして、見落とす。


 思い返せば俺も、ただ夢中だった。剣の腕を磨き、夢の中で何度もあの憎たらしい家族を斬り殺した。


 だが……晴れぬ。復讐のための剣は、己の心をより鈍く曇らせるだけだった。それに、性にあわないのもある。真っ向から奴らを斬り伏せねばならんのだ。実力で、そこまで這い上がって。


 その過程で……俺は何かを見落としていただろうか。自分では気づくことすらもできない、何かを。


 人としての情、良心、善悪を定める審美眼。見落としたのではなく、歪んだのかもしれない。


「ちょっと、西条せんぱい? ボーッとしてると、また列の間が空きますよ」


 不貞腐れた顔で見上げる、組織の後輩を見て……あぁ、俺は何をしているのだろう、と何度も反芻させた。復讐はどうした。鍛錬はどうした。このようなことに……意味はあるのか。


 どうにも答えが出なくて。口からは曖昧な返事が漏れるばかり。どうにも、らしくない。


「ほら、ゴンドラ来ましたよ。乗り遅れる気ですか?」


 袖を掴み、無理やり引っ張って不器用な球体にある扉をくぐる。微妙に足元が揺れる。観覧車とは、恋仲同士の者が乗ってこそ真価を発揮するとネットには書いてあった。俺とこの後輩は、まったくそんな仲ではない。むしろ、その笑い方や作られた仕草に身体が拒否反応すら起こす。


 何度も見てきた。人に媚びへつらう、その態度。表面では笑っているくせに、内心では下に見ている、腹の黒い者共。


「……西条せんぱい、具合でも悪いんですか? もしかして、高いところとか閉鎖空間が苦手とか?」


 そう尋ねてくる後輩の顔は、本当に心配しているように見えた。少なくとも、下手にでて相手の顔色を伺うような態度ではない。


 ……やはり、奴のようにはいかん。唯野、アイツならばこんな状況下でも対応してしまうのだろう。こんな普通の疑問ですらも、なんなく聞いてしまえるのだろう。



 ───何故、普通に生きているだけのお前がそんな仮面を被っているのか。



 俺ならばわかる。立場的にも、そうならざるを得ない場合があった。嫌々でも、付き従う他なかった。だが、こいつは。普通の家で、普通に学校生活を送り、何不自由なく生きていた普通の女は、どうしてここまで歪な仮面を被る必要があるのか。


「苦手、ではない。俺が苦手とするのは……お前のような仮面を被った人間だ」


 閉鎖空間。逃げ場もない。だというのに、切り出した。ゆっくりと高度を上げていくゴンドラの中で、まるで初めて神話生物と退治した時のような息苦しさを覚えた。


 斜に構えず、真っ向から人と向かい合う。やってきたつもりで、実はやれていなかったのかもしれん。


「疑問だった。普通に産まれて、普通に生活している奴らが……例えば、鈴華。あ奴のように、見ればわかるような人間に育つものだと思っていた。俺と同じ場所に立つ者はすべからく、同じような環境と教育を受けて、育てられたのだと思っていた」


 誰も信用できず。また周りからの情報を全てカットして。一人孤高に。悪くいえば孤独に生きてきた俺は、周りの普通の人間が妬ましかったのだろう。持って生まれた『普通』というものが。


「……お前は、いや、お前のような他者に対して仮面を被り、自己を押し殺し、息を潜めて耐え忍び、気がつけば首元にナイフを突きつけてくるような輩を、俺は見てきた。同じ境遇で生まれ育った男が、友になろうと近づき、愚痴を言えるような間柄になったかと思えば、親が家に近づきたいがための策であったと知った。笑っているだけの者がその時、より一層恐ろしく思えた」


 虚しく響いていく己の声を聞いて……なんとも、馬鹿馬鹿しく思えてきた。何を話しているのだろうか。あの馬鹿共と連んでからというもの、おしゃべりが過ぎるようだ。こんな事では、あの世界では足を掬われる。


「……すまん。あまりにもらしくないことをした。夜景が見えるんだったか」


 目線を逸らし、窓の外へと目を向ける。賑わう人々とライトアップされた城が見える。遠くの方では明かりの灯った住宅街も見えた。


 煌びやかな光を浴びる城を、大勢の人がカメラで写真を撮っている。ドリームランドのキャラクターが出てきて、軽くショーを行い、それを見てまた盛り上がる。


 綺麗、なのだろう、きっと。けれども……どうにも、今目に映るその景色を、純粋に綺麗だとは思えなかった。


「……西条せんぱいは」


 嫌に強ばった声が聞こえ、思考は外の景色から後輩へと戻っていく。


「他人を寄せつけないで生きていくの、疲れたりしないんですか」


 視線を戻す。椅子に腰掛け、膝の上で両手を握っている後輩は、俺にとってまったく不思議な言葉をなげかけてきた。


「他人を寄せつけるとは、隙を晒すということだ。孤高であり続けるからこそ、その情報は漏れず、また盗まれもしない。社交的であれ、との教えに対する反抗心もあったのだろう」


「……西条せんぱいは、どうして組織に入ったんですか」


「無論……金と権力のためだ」


 金がなくてはなにも出来ない。お金が無くとも幸せだと、人はいう。なるほど、金の必要ない幸せもあるのだろう。だが、金とは手段だ。幸せになるための手段。それがなくては……選択肢がなくなってしまう。


 俺の答えを聞いた後輩は、そのあまりにも俗物的な要求に目を開いて驚いていた。この話をしたのは、唯野と鈴華だけだったか。まさか、女にこの話をすることになるとは思ってもいなかったが。


「西条せんぱいって、西条グループの次男ですよね。なのに、お金……?」


「全ては復讐のためだ。元手になる金がなければ、奴らを真っ向から叩き潰せん。だが……これでは、まるで金の亡者になったみたいだ。奴らと同じように」


 目標があって、到達する手段があって。けれどもその手段こそが目標から遠ざかるものであった時、果たしてどうするべきなのか。それでも、やるしかないと足を踏み出し続けてきたが……ふと、考え直して足が止まる。今のように。


「……前に、西条せんぱいのお兄さんに会った時。せんぱいはとても嫌な顔をしていたのを覚えています。踏み込まれたくないんだろうなって、思いますけど……なんでしょう。誰かさんのお節介が移ったんでしょうか。話を聞いてあげたいなって、そう思ったんです」


 真っ直ぐに見つめてくるその瞳が、どうにも唯野と重なる。なるほど、アイツのお節介は確かに伝染したようだ。いつかのあの夜、唯野は何事もなく近寄り、そして枷を一つ外していった。肩の荷が少し軽くなったと感じたのは……その時からなんだろう。


「……聞いても楽しい話ではないが、な」


 だから……話してもいいと、思えたんだろう。


 産まれを。育ちを。その過程を。かつて唯野……いや、あの二人に話した時のように、嫌味たらたらと、そして嫌悪たっぷりに混じえて言ってやった。過ぎ去った時間は戻らないのだと言わんばかりに、観覧車は上へと上昇していく。


「……何も、殺したいとは言わん。ただこの手で、奴らをひれ伏せさせ、嫌味ったらしく言ってやりたいだけだ。俺は俺として、ここまで来たのだと。『西条』としてでなく、『薊』として」


 そこまで言いきったあたりで、ちょうどゴンドラは真上辺りに来たのだろう。視界はやけに高くなっていた。だが、きっともっと高い。奴らは、もっと高いところから見下している。


「だから、俺は自分の名前が嫌いだ。西条なんて肩書きは……金持ちの息子というレッテルは……まるで、呪いのようなものだ」


 ゴンドラは急に動きを止める。まるで時間が停滞したかのようにも思えたが、時間は確かに進んでいた。


 消えることはなく、一生つきまとうもの。名前という呪い。時間のように、止まりもせず、消えることもなく、ただひたすら今を生きる俺の背後にピタリとついてくるのだ。


「……ゴンドラ、止まっちゃいましたね」


 慣性が働いて少しだけ揺れ動く。そんな中では息のつまるような空気だけが閉じ込められていた。だが……不思議と、息苦しいとは思えなかった。話すことを話してしまったからなのだろう。愚痴を零すだけで、人間というのはどうにも安定するようだ。


 後輩は俺の言葉を聞いて、何を感じたのだろうか。いいや、別に何を考えて欲しい訳でもない。同情も何もいらない。なら、俺は何を期待して話したのだろう。


「今度は……私の話でも、しましょうか」


 苦々しく、けれども薄らと笑いながら。後輩は俺と同じように、産まれてからの軌跡を話し始めたのだ。


 ……俺が期待していたのは、これだったのだろうか。答えは出ないが、それでもその言葉の裏側まで探るように、閉じられた空間に響く音を拾い集めた。


 ごく普通に生きていた。なんとも羨ましい家庭で育ち、そして友人からの妬みで己の地位を失落させ、辿りついた結論は擬態だった。誰にでも好印象を与え、自己を押し殺し、そして静かに耐えていく。内心では人を貶しながら、人を煽てるその精神性から、いつからかどんな人にでも仮面を被るようになったのだと。


 ……あぁ、と。気がついた時にはそんな声が漏れていた。


「……これが私の過ごした日々です。せんぱいと比べたら、そりゃ笑えるような話かもしれないですけど。それでも、辛くて、我慢して……ここでようやく、私はその仮面を見破って引き剥がそうとする人に出会ったんです。それも、一人ではなく……何人も」


 どこか嬉しそうに語る後輩。その見破った人とはまさしく唯野で、引き剥がそうとしたのは間違いなくアイツらなんだろう。


 やかましいが、人と関わることになると奴らは途端に手強くなる。そして、だからこそ今ここに俺がいるのだろう。そしてまた……こうして他者と向かい合わなければ、気がつくことさえもさえもなかったのだろう。知らなければ、ないことと同じように。知ろうともしなかった俺は、ようやく人並みになってきたんだろう。


「……俺がどうして、お前を嫌っているのかがわかった気がする」


 軽く息を吐いた。どうにも、後輩の顔が見れない。太ももに肘を乗せ、そして額を抑えるようにして俯きながら俺は言う。


「お前は、有り得たかもしれない俺の結末なんだ」


 もし仮に、俺に反抗心がなかったら。俺はきっと自分を殺して、他者に擦り寄り、西条グループをできる限り大きくしようと奔走していただろう。目の前の後輩は、紛れもなく俺の可能性だったものなんだ。


「なるほど……ククッ、いや……同族嫌悪にも似た何かだったのか、この気持ちは」


 歪んだ笑みを浮かべてせせら笑う。顔を上げる気力すらもなくなりかけていた。ただじっと、動く気配のないゴンドラの中で床だけを見つめている。


「……実は、似たもの同士だったんですね、私たち」


 聞こえた声に、首が動く。後輩の顔が暗くてもよく見えていた。儚く微笑むようなその表情が、じっとこちらを見つめている。


「勝手に思い込んで、知ろうともしないで、一方的に嫌って。それって、皆が私にしてきたことと同じなんだって気がつきました」


 後輩の腕が伸ばされる。互いに向かい側の椅子に腰掛けていて、その中空で手が差し出されていた。この手は、何を意味しているのだろう。不思議に思い、後輩の顔を見つめてみれば……アイツは、くすりと笑って言ってきた。


「変な確執とか、やめて仲良くしましょうよ。私、わかりましたから。せんぱいはきっと、とっても不器用なんだって。真っ直ぐにしか生きられないから、とても生きづらいんだって。だから、なんでしょうか。せんぱいの隣にいてあげないとなって思うんですよ」


 もちろん、友達とかそういう関係で、と彼女は付け足した。隣にいてあげないと、か。不思議だ。以前そんなことを鈴華に言われた気がする。傍目から見ても、俺はそんなにも不器用に見えるのだろうか。


「……思ったよりも、お節介なんだな。まぁ……そういった奴は、嫌いじゃない」


 差し出された手に、自分のものを重ねる。堅い剣ばかり触ってきた俺にとって、その手はなんとも言えない柔らかさがあった。なんだか、心地よい柔らかさだ。


「えへへ……これから、よろしくお願いしますね、薊さんっ♪」


 手を握りながら、楽しそうにそう告げてくる。その声音は嬉しさ一色なんだろう。それくらいは汲み取れた。


「……名前呼び、か」


 なんだか、いざ呼ばれるとくすぐったい気もする。知れずと俺は視線を逸らしていた。


「だって、西条って名前嫌いなんでしょう? だから、私はせんぱいのことを薊さんって呼んであげます。私のことも、名前で呼んでくれてもいいんですよ?」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべる、という言葉がある。なるほど、まさしくそれであった。歯を見せるように笑うその姿は、確かに子供っぽさをも感じさせる。


 俺はその返事として、彼女の名を呼んでみた。


「……これからよろしく頼む、藍」


 ピクリッと握られた手が動く。彼女を見てみれば、月明かりや下からの光だけでも、頬が紅潮しているのだというのが見てとれた。何を恥ずかしがっているのか、俺にはわからない。


「っ……あ、あざとい! あざとすぎますよ薊さんっ!」


「どこがだ?」


「名前! 呼び捨て!」


「……俺は普段、さん付けをしないからな」


「で、でもっ……うぅ……」


 悔しがっているのか。仕返しとばかりに握っている手を強く握り潰そうとしてくる。けれども、柔らかい感触が更にわかりやすくなるだけに終わった。


 互いに不自然な沈黙が続く。未だに観覧車は動き出す気配がない。息苦しくはないが、どうにも落ち着かなかった。お互いに手を離して、視線をそわそわと動かす。


「なっ、なんか別の話しましょうか! そうだ、せんぱいたちの話をしましょう!」


「アイツらの、か。まぁ……よかろう」


 提示された話題に乗っかるように、俺たちは話を始めていった。他愛のない話であったり、また任務中の様子であったり。天パはどうやっても天パにしかならないという身も蓋もない話まで。


 互いに言い合ううちに、随分と俺と彼女がアイツらに助けられていたのだと実感する羽目になった。俺はともかく、いや俺も彼女も、あの二人がいるから今ここにいる。 それは確かなことだった。


「不思議ですよね、特に唯野せんぱいは。なんか、なんでも話してしまいそうになるというか……」


「……アイツはな、自分では何も才能がないと卑下していたが……とんだ食わせ者だ」


「と、言うと?」


「確かに武器を扱うには、いや何かを修めるということに関して、アイツは才能がないのかもしれん。だが、アイツは間違いなく天才の一人だ。よくアニメでもいるだろう。他人に合わせるだけで、自己主張しないようなキャラクターが」


「えぇ、まぁ……確かにいますね」


 アニメの話を始めてしまったが、彼女はわかってくれているようだ。そのまま俺は話を続けていく。


「アイツはその他人に合わせる人間の完成系だ」


「……あの人が?」


「そうだとも。他人に合わせるということは、他人に合わせないという選択もできる。他人の心に歩み寄り、そこから掻き回すのも手繰り寄せるのも思いのまま……。昔の国には宮廷道化師というものがいた。他人に笑われるピエロだが、間違えてはいけないのは笑われているのではなく、笑われているように見せることだ」


 そう、あの男の恐ろしいところはそこだ。手の上で転がしているかと思えば、ふと気がついた時には自分が転がされている。いや、最初から転がしているように思わされている。道化師とは頭が良くなければなれない職だ。なにしろ、王様に対して怯えることなく言葉をいえる人物だからだ。


 おどけているように見せかけて、その実裏で牛耳るような実力すらも持ち合わせる。末恐ろしい。アイツが敵でなくて良かったと、今は思っている。誰に対してもその態度を変えていき、合わせることができる。超能力に近いものだ。仮面を被るのではなく、まさしく自分すらも騙すように化けてみせる。


「……だが、俺はそこに興味がある。誰に対しても変化するというのなら……本当の唯野とは、一体誰なのか。どんな時、奴は自分の本性を明かすのか。それはどんな性格なのか。窮地に陥った時、人は化けの皮が剥がれる。だからこそ、その瞬間が少し楽しみといえば、楽しみだな」


「唯野せんぱいが、そんな……。じゃあ、鈴華せんぱいは?」


「アイツは……そうだな。少し前までは、唯野が弱かった。戦闘スタイル的にも。だが、今では鈴華がまちがいなく一番弱い。戦闘能力ではなく……その心がだ」


 どうしようもない場合になってしまった時、自分を奮い立たせるもの。それが鈴華にはない。唯野は、それを持ち合わせた上で戦い抜くだけの根性がある。いや、もはや執念や執着に近い。狂気的なものだ、アレは。


 しかし、鈴華は。何もないのだ。何しろ自分がなぜ組織にいるのかすらしっかりと理解できていないだろう。それを自分で考えて立てるようにならなくては……崩れ落ちるのは、まず間違いなくアイツだ。


「……馬鹿だからな、アイツは。今を楽しむあまり、自分を省みていない」


「……なんとなく、わかるかもです」


 ひとしきり話し終わっただろう。そんなタイミングで、ゴンドラが揺れ始めた。景色が少しずつ動いていく。どうやら、再稼働し始めたらしい。


「おっ、動きましたね」


「そのようだな」


「あっ、夜景! 話し込んでて全然見れてない!」


 言いながら、彼女は身体ごと視線を窓の外へと向ける。そしてその景色を見て、目をきらびやかに光らせた。はぁーっと感嘆の息が漏れている。


 その景色を見ていたら、気がつけばポケットに手を伸ばしていた。そこから携帯を取り出して……カメラでその光景を写す。カシャリッと音が鳴って撮れたものは……ライトアップされた城と一緒に写る彼女の姿。俺が写真を撮ろうとした瞬間に振り向いたおかげで、変なふうに笑ったまま写ってしまっている。


「ちょ、薊さん!?」


「いやなに……綺麗だったんでな」


「綺麗ッ!? あっ、夜景! 夜景ですよね! いやー、綺麗ですよねー。私も写真撮りたくなっちゃうくらい」


 そう言って近づいてきたかと思えば、彼女もポケットから携帯を取り出してカメラを起動させていた。隣に座り、腕を伸ばして内カメにする。これは……よくSNSに載っている自撮りというものだろう。


「ほら、もっとくっつかないと入らないでしょ!」


「むっ……」


 十分入りきっているだろうに、彼女はより距離を詰めてくる。お互いの身体がぶつかりあうところまでやってきて、ようやくカシャリッと音が鳴った。


 ……写真には仏頂面の俺と、それと対照的に笑っている彼女が写っている。


「うわー、薊さんって写真写るとなんかこわーい」


「お前の背丈をあと5センチ縮めてやろうか」


「やーめーてーくーだーさーいー!」


 頭に手を乗せて無理やり押し潰そうとすると、彼女は小さな悲鳴をあげながらどこか嬉しそうに身をよじらせていた。


 そんな彼女をひとしきりいじり倒した後、何か視線を感じて、城とは逆側の窓を見てみた。観覧車の中心にある動力部付近で、黄色の熊と帽子をかぶった青年。そして紫色のローブを着た従業員らしき人がいたのが見えた。


 気にすることでもない、先程の点検だろう。視線を戻せば、外を見ていたことを怒っているのか、頬を膨らませている彼女がいる。指で刺してみれば、ぷすっと空気が抜けていった。


 それを見て不覚にも……お互い、笑ってしまったのだ。





To be continued……

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