第26話 帰路にて

 あのバケモノと戦った後、俺達は民宿に戻った。民宿では誰も邪魔してくることもなく、飯を食うだけの気力もなかった俺達は風呂に入った後に深い眠りについた。


 普段は夢を見るが、昨夜は見なかった。夢を見るだけの体力すらも残っていなかったのだろう。


 そして今日の朝、起きてすぐに飯を食い荷物を整理する。昼前にはオリジンに帰らなければならないからだ。


 事件は解決。神話生物も倒した。もうここに残ってやることは無いはずだ。断ち切った電線もオリジンが国家経由で何とかしてくれるらしい。流石国家暗部組織だ。


「……結局槍使わなかったな」


 袋にしまいこんだ武器を見てそう呟いた。いや、相手が悪かったというのもある。あんな不定形なバケモノ相手に物理攻撃は意味をなさないだろう。


「俺は痛い出費だなぁ……。マガジン五つと手榴弾が四つか……」


「それ自費なんですか?」


「支給品以外は自費なんだと。俺ほとんど支給品使わないからなぁ……」


 自費なのか。そこら辺もオリジンが持ってくれたらありがたいが、流石に無理か。国家が赤字なのに暗部に金が回るわけがない。まぁ、給料はいいみたいだし、恐らくそれらを買い揃えても金はだいぶ残るだろう。むしろ残らなかったら訴えてやる。


「二人とも、準備が出来たら荷物を車に積んでおきなよ」


「りょーかいっす」


「はーい」


 部屋の外から聞こえた加藤さんの声に返事をしつつ、荷物の整理を終わらせた。最後に周りを確認して、忘れ物がないかチェックする。


「……よし。それじゃ先に置きに行ってますね」


「はいよー」


 先輩は広げてあるゲーム機の収納に困っていた。だからゲーム機を持ってこなければいいものを……。


「……あっちぃなぁ」


 日照りがすごい。もう完全に夏だ。世間はそろそろ夏休みかぁ……。俺達の組織に夏休みなんてものはあるんだろうか。いや、ないか。バケモノとの戦いに休みなどないのだから。


「はぁ……こんな中運転して帰るのは嫌になるな……」


 日陰で涼んでいる加藤さんが心底嫌そうに呟いた。申し訳ないとは思うが、残念ながらまだ俺は車の免許が取れない。せめて原付の免許くらいは取るべきだろうか。


「すいませんね加藤さん。運転変われたらいいんですけど……」


「まったくだ。女に運転させといて、隣でゲームにふける馬鹿を乗せなきゃならんとはねぇ……」


「あはは……なんなら、今回は自分が助手席座りましょうか? 話し相手くらいなら務めますよ」


「君はすぐに寝るだろう? 菜沙ちゃんが言っていたよ。ひーくんは昔から車の揺れに弱くてすぐに眠たくなるんですって」


「アイツいらんことを……」


 まぁ確かに否定はできない。どうにも昔から車の揺れは眠たくなってしまう。あれだな。赤ん坊の頃に親が俺を眠らせるためにドライブに連れていったせいだな。眠らせる時は大体それだった。それが今も尚身に染みてしまっているんだろう。


 ……そういえば、菜沙の事で何か忘れているような。まぁ、思い出せないということはどうでもいいことなんだろう、きっと。


「……彼女とは仲がいいみたいだな」


「菜沙ですか? まぁ、昔からの幼馴染ってやつですよ」


「そうか……。良いなぁ、そういうの」


「……彼氏とかいないんですか? モテそうに見えますけど」


 そう聞くと、加藤さんはやれやれと言いたげに顔を横に揺らした。


「あのなぁ唯野君。女性においそれとそういった事を言わない方がいいぞ?」


「思ったことを言っただけなんですけど……」


「だから余計にタチが悪い。君はあれか、朴念仁とかタラシとか言われる類の人間だな?」


「んなわけありませんよ。産まれて此の方告白なんてされたこともないんですから」


「……本当か? 見てくれは悪くないと思うんだが……」


 ……さっきの仕返しに、俺も首を竦めて人差し指を左右に揺らしながら言った。


「そういうこと、言わない方がいいですよ? 男は狼って知らないんですか?」


「……ハッ。仕返しのつもり?」


「さて、どうでしょう」


「……それっ」


 加藤さんがペットボトルの蓋を開けて中身を勢いよくぶつけてきた。


 冷たいッ!! こんなアホなことで『起源』使うとか何考えてんだこの人!?


「……顔がびしょ濡れなんですけど」


「涼しくなったろ?」


「だからって何も中身をそのままぶつけるこたぁないでしょう……」


 鞄の中からタオルを取り出して濡れた部分を拭いていく。ぶつけた後も操作しているのか、水滴は服には垂れなかった。


 拭いていると、民宿から先輩も荷物を抱えて出てくる。俺のことを怪訝な顔で見てきた。そりゃ頭が濡れていたら不思議に思うだろう。


「なんで濡れてんの?」


「加藤さんにペットボトルの中身ぶつけられました」


「……加藤さん俺にもおなしゃす!! それってもう合法的な間接キスじゃないっすかね!?」


 加藤さんがペットボトルを先輩の脳天目がけて投げつけ、見事に命中する。いや、痛いなあれは……。なかなかに鈍い音が聞こえた気がする。投げつけた本人は薄らと頬を染めていた。


「ば、バカ言うな! こんなので間接キスになるわけないだろ!」


「慌てる辺り口はつけたんですね……」


「ッ──お、お前ら年上をからかって楽しいか!?」


『えぇ、とっても』


 そう答えたら加藤さんがいい笑顔で近寄って来て、俺と先輩の頭をガシッと掴んだ。


 ……え、ちょっ、待ってください!? と謝ろうとしたが、時すでに遅し。


「ふんっ」


 ガンッと俺と先輩の頭がぶつかる。痛い……とてつもなく痛い……。頭を抱えて痛みに悶える俺と先輩を、加藤さんはニヤリと笑いながら見下ろしていた。




〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




 帰る前に、何かやり残したことがないかと言われ、俺達は花巫さんのいる神社に来た。昨日バケモノが通ったせいで、いろいろな場所が壊れたり、跡が残っていたりと散々な事になっている。復旧が大変そうだ。


 階段を上り、境内に出ると花巫さんはいつもの様にそこにいた。ただ……いつもと違うのは、眼帯をつけていないというところだろうか。俺達を見つけた花巫さんは途端に笑顔になって走り寄ってきた。


「皆さん、来てくれたんですね! そちらの方は……」


「あぁ、二人の上司だよ。加藤 玲彩だ」


「玲彩さん、ですか。可愛らしい名前ですね!」


「ッ───」


 なんでこの人頬染めてんだ。褒められ慣れてないのか、耐性がないのか、初心なのか……。いや、全部だなこれ。


「皆さん、昨日はありがとうございました。皆さんがいなかったら、私はきっと……」


「いいってことよ! それが、俺達のお仕事だしね。なぁ氷兎!」


「まぁ、そうですね」


 適当に相槌を返しておく。境内をぐるりと見回すと、昨日の戦闘の跡が多く残っていた。幸いにも神社自体に大きな傷はなく、少しの修理で何とかなりそうだ。周りは凄惨たる様子だが。


「……帰ってしまうんですか?」


 花巫さんが話しかけてきたのはどうやら俺のようだ。辺りを見ていた視線を花巫さんに戻すと、彼女は寂しそうに顔を曇らせていた。


 ……けれど、どこかその表情が嬉しくも感じる。会った当初ではここまで感情を表に出さなかっただろう。少しだけ我が儘になれたのかもしれない。


「そうですね。やることは沢山残ってますから。きっとまだ、花巫さんのような境遇の人がいると思う。できるなら俺は、そういった人達を助けたい」


「……ちゃんと、自分が何をすべきかわかっているんですね。私には……まだ、何をするべきなのかわかりません」


 彼女は小さく言葉を紡いでいく。俺も先輩も、加藤さんも何も言わずに彼女の言葉を聞いている。


「なりたいものとか、何も考えられなくて……本当は、私は昨日終わる予定だったのに。だから、急に何にでもなれると言われても、私には選択肢が思い浮かばないんです。私は……どうしたら、いいんでしょうか……」


 彼女のその言葉の裏側は、きっと答えを出して欲しい、だろう。自分で言うのもなんだが、良くも悪くも俺は彼女に信頼されてしまったらしい。彼女は俺に道筋を決めてほしいんだろう。それに乗っていけば、私は大丈夫だと思っているんだろう。


 ……けれど、それじゃダメだ。


「……それは、俺に尋ねるべきことではないと思うよ。自分の人生なんだ。生き方も、行く先も、自分で決めないと。何もかも全ての選択を誰かに任せてしまったら、それはもう花巫さんの人生じゃない」


「……でも……私には、何も……」


「……ようやく、花巫さんは自分の人生を手に入れられたんだ。誰かによって終わらせられる命じゃない。ここから先はもう、決められた道じゃない。何も無いなら、悩めばいい。誰かに全てを聞くのではなく、可能性を聞けばいい。君は何になった方がいいじゃなくて、君は何になることが出来ると言われる方がずっといい」


「………」


 花巫さんは俯いたまま、俺の言葉を聞いていた。こんなこと言われなくても、彼女はきっとわかっているだろう。わかっていても、足を踏み出せないのは……彼女がまだそういった事を経験したことがないからだ。


 なら、誰かが背中を押してあげればいい。それだけで彼女は一歩ずつ進めるだろう。


「……先はまだ長いんだから、ゆっくり悩めばいいと思うよ。自分のしたい事、やりたい事、きっと今まで生きてきた中にヒントがあると思う。君のお爺ちゃんもきっと手を貸してくれるはずだよ」


「……私の、したい事……」


 彼女は顔を上げた。その顔にはもう翳りはなく、まだ迷っているものの、足を踏み出す勇気だけは手に入れられたように見える。


 こんな言葉でそう思えたのなら、それはそれで良かった。


「……もっと、考えてみます。私に出来ること……きっと何か、あるはず……ですよね?」


「……えぇ。きっとありますよ」


 そう言って俺は微笑んだ。彼女もつられて笑った。その笑った顔の頬に、一筋の涙が落ちていく。それに気がついた彼女は慌てて服の裾でそれを拭いた。


「あれ……おかしい、です……涙、止まんない……」


「………」


 ……昨日もそうだが、俺には彼女の涙を止めることは出来ない。ここで彼女を抱きしめてあやす事くらいは出来るだろう。けど、それはしない方がいい。それはきっと……彼女の為にならない気がした。


 困ったように隣を見れば、先輩も加藤さんも、ただ頷いていた。それでいい、と。


「……花巫さん」


 彼女の名前を呼ぶと、その赤くなった目を隠すようにしながら俺のことを見てきた。俺は彼女にある提案をして涙を止めようとしてみる。


「写真、撮りましょう。思い出を形にして残すのは、きっと良いことです。涙でお別れなんて、そんなもの今時流行りませんよ」


「ぅ……っ、で、でも……私……」


「ほら、涙を拭いて」


 ポケットから取り出したハンカチで彼女の涙を拭ってやる。まだ泣いてはいるものの、少しずつ収まってきたようだった。


「先輩、セットお願いできます?」


「勿論! じゃあ……神社バックに撮るか! こんな良い神社写さないのは勿体ねぇよ!」


「……私も写るのか?」


「そりゃ勿論!」


 渋々といった様子で、加藤さんは神社の前に歩いていった。先輩は携帯を置けるいい感じの場所を探し始め、俺は泣いている花巫さんの手を握って誘導する。


「ほら、行きましょう」


「ぅ、ぇ……せ、せめて涙止まってから……」


「そんな時間ないですよ。ほら、笑って笑って!」


 空いている手で彼女の口端を無理やり上げた。やめてくださいよ、と彼女は笑いながら抵抗する。俺も笑って、彼女にそれでいいんですよ、と言った。


「いいとこ発見! よーし、じゃあカウントダウン始めるぞー!」


 先輩が携帯をそこら辺からかき集めた廃材の上に置いてから走って戻ってきた。右端に加藤さん。真ん中に先輩、そして左端に俺と花巫さんが並んでいる。


「五秒前!」


 先輩の声が響いた。せめて形に残るものだから、俺も笑っておこう。


「二秒前!」


 あと少しでシャッターが切られる。花巫さんは手を握るのをやめ、両手で俺の腕を掴んできた。


 ……柔らかいものが当たっている気がする。


「はい、チーズ!」


 カシャリッと音が鳴り、写真は無事に撮影された。


 ……頬が赤くなったり、口元が歪んでいたりしていないだろうか。


「……唯野さん」


 彼女が握る力を強くしてから、俺の正面に回り込んだ。身長的に彼女が上目遣いになる形で、彼女は少し潤んだ瞳のまま、それでも笑顔でお礼を言った。


「ありがとうございました……氷兎、さん……」


「ッ……!?」


 物凄い衝撃を受けた気分だった。その恥じらうような笑顔が、どうにも可愛らしくて……。どうやら、上目遣いは菜沙によって耐性つけられていてもダメなようだ。顔が暑くなっていくのがわかる。彼女も、顔を赤くして俯いていた。


 ……少しだけ、イタズラしてみようか。


「……これから、頑張ってくださいね。菖蒲さん」


「っ、ぁ……はぃ……」


 真っ赤になって益々下を向いてしまった花巫さんを、俺は笑って見下ろしていた。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜





 とうとう、帰る時間となった。民宿で車を出す用意をしていると、遠くの方からゾロゾロと大勢の人達が歩いてくるのが目に入ってきた。先輩が嫌そうに顔を歪める。


「げっ……なんか言いに来たんじゃないのアレ」


「……先頭に立ってるの、花巫さんの爺さんじゃないですか。なら大丈夫でしょう」


「この距離で良く見えたな……」


 次第に距離は縮まっていき、俺達三人の前に花巫さんと爺さんを先頭にした集落の人々が集まってきた。爺さんが一人前に出て、俺達に頭を下げる。


「皆様にはとんだ迷惑をおかけした。本当になんと、お礼を言ったらいいものか……」


 ……ここはまぁ、加藤さんが対応すべきだろう。どうやら先輩もそう思ったようで、二人で加藤さんを見つめることになった。気がついた加藤さんは、聞こえないようにため息をついてから答える。


「……犯した罪が消えることは無い。貴方達が私達にしたことや、死んでしまった仲間のことを私達は忘れることは無いでしょう。恨みはないとは言いません。なので、ここで起きたことを他言無用にしていただきたい。それで私達は手を打ちましょう」


「……わかった。村の者も皆聞いたな」


 爺さんのその言葉に、村の人達は首を縦に振った。皆の先頭に立って爺さんが話を進めているということは、彼の立ち位置は変わったのだろうか。気になったので爺さんに向けて疑問を投げかけてみる。


「……爺さんが次期村長になったんですか?」


「あぁ。もうあんな真似はさせんよ。君にも随分と助けられた……。君が来なかったら、儂はきっと、菖蒲を本当の意味で見てやれなかっただろう。本当に、ありがとう」


「……まぁ、貴方なら安心ですよ。もう菖蒲さんを酷い目にあわせないでしょうしね」


「……勿論だ。儂の大事な孫娘は、絶対に守りきってみせよう」


 互いに頭を下げて、会話は終わった。花巫さん一家は昔から生贄とされてきた家系だ。それ故に集落の中でも地位は上の方だったんだろう。次期村長になるのも、きっと爺さんが皆を黙らせてなったに違いない。良い声してるしな、爺さん。


「……氷兎さん」


 花巫さんが俺の前に来て名前を呼んだ。少しだけ笑いながら、彼女は言った。


「私、まだわからないけど……人の心の傷を癒せるような、そんな仕事に就いてみたいんです。私が、助けられたように……私も誰かの心を、助けてあげたいんです」


「……それは、いい事じゃないですか。なれるといいですね、菖蒲さん」


「はい……!」


 笑いながら彼女は爺さんの元へと戻って行った。加藤さんが、そろそろ帰るぞと言ったので、俺と先輩は車に乗り込むために移動する。


「氷兎さん、ありがとうございました!!」


 後ろから花巫さんの声が聞こえる。俺は振り返って彼女に笑って手を振ってから車に乗りこんだ。色々な人の、感謝の言葉が聞こえてきた。それを聞きながら、車は遂に発進する。村の人達がどんどん遠ざかっていく……。


「……けっ。掌クルックルだなあいつら。360度も変わりやがって」


 先輩が余韻をぶち壊すように悪態をついた。まぁ確かに。昨日までの酷い仕打ちを考えると、アレを倒しただけで感謝されるのも中々人の汚い部分を見るようで嫌な気分だった。


「……それを言うなら、180度ですよ。この歴史的バカモンが」


「……仕方あるまいよ。あぁいうのが人間というものだ」


 先輩の言葉にネタで返し、加藤さんは苦々しく呟いた。先輩は、深いため息をつきながら突然思い出したかのように身体を動かし始める。


「あっ、あの蹴り入れやがったジジイ殴ってねぇ!! ちょっと加藤さん引き返してください!!」


「やめんか。殴りに行くなら君を捕まえるぞ」


「あ、ならそっちでお願いします……やめてくださいそんなゴミを見る目で俺を見ないでくださいすみませんでした」


「先輩……」


 良くも悪くも欲に忠実な人だな、本当。普通年上に向かってそんなこと言うかね。いや、もしかしたらこの二人案外仲がいいのかも。それから落ち着いたのか、先輩は携帯を横持ちにしてゲームをし始めた。


「蹴り入れられたで思い出したけどよぉ、おかげであの日ログインボーナス貰いそびれたんだよなぁ……」


「……あっ、そういえば俺も貰い損ねましたね」


 色々と大変だったから仕方がない。俺も確認しようと、携帯の画面を点けた瞬間だった。


「……加藤さん、俺降ります。帰りたくなくなりました。むしろ降ろしてください!!」


 画面には不在着信が127件。トーク画面は、ひーくん、ひーくんと同じ言葉が何度も送られてきている。そうだった、二日近く菜沙に連絡入れられてなかった……。このまま帰ったらどんなことになるのか……想像もしたくない……。


「ん……うわぁ……」


 先輩も、俺の携帯の画面を見て唖然としている様子。まずいまずいまずい、本当にまずい。この状態の菜沙はマジで何やらかすかわからん。昔誰だかしらん女子が俺の事が好きだとかいう噂が流れた時の菜沙の状態に酷似している……。


「あぁ、まぁ、なんだ……その……励めよ」


「何に!?」


「子作り」


「子作り!? なんで!?」


「ぶっ、ゲフッゲフッ……。な、何を言ってるんだ鈴華君!?」


「……あのなぁ、氷兎……」


 ミラー越しに見える先輩の顔は、とてつもなく真剣だった。先輩は何か打開策を知っているのだろうか。


「……俺は、お前が拉致監禁される未来しか見えない」


「いやいやいや、そりゃないですって! アイツ俺のこと好きじゃないですし、まず子作りって俺まだ17歳ですよ!?」


「はぁ……もうこいつダメだぁ……」


「ちょ、先輩何か知ってるなら助けてくださいよ!! 先輩、先輩ッ!!」


 ……帰りの車の中はやけに賑やかだったと言っておこうか。ともかく、今回の任務を通して二人との仲が深まった気がした。







〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜






 ……彼が帰ってしまってから、私は家で彼のことをずっと考えていた。机の上においてある、彼が貸してくれたタオル。結局返しそびれてしまった。


「……えへへ。いい匂い……」


 彼の匂いがする。心がぽかぽかと暖かくなった。


 またきっと、会えるよね。


 ありがとう、氷兎さん。私はこれから、頑張って歩いていきます。今度は……私から、会いに行きたいです。






To be continued……

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