万引き犯 Ⅲ
行く手には、ちょうど私の勤めるスーパーのライバルにあたる、別の大手スーパーのチェーン店舗が聳え立っていた。
入口から店内に入り、セキュリティをチェックする。私の店のようなEASは導入されていないようだ。出入口にゲートはなく、警備員も、前がちゃんと見えているかすら怪しいよぼよぼのおじいさんが1人いるだけ。未精算商品を持ち出そうと思えばいつでも持ち出せる。
私はここに、この間の少女が来ると睨んでいた。いや、確率からいうとかなり低い。手慣れた様子もなく、常習犯の気配もないし……ただ、なんとなく予感のようなものがあった。私の店で無理だったのなら、他のセキュリティがゆるい店で……という発想自体は、それが犯罪につながるものであるということを除けば――別段、不自然でもない。
万引きの被害件数自体は、店舗単位で見れば決して多いものではないのだが、だからといって無視することはできない。商品は、店頭に並んでいるときの値札の表示価格だけがすべてではないからだ。例えば、原価150円の商品を定価250円で売るとすれば、粗利益は100円となる。しかしながらここに、管理費、人権費、店舗設備費用に維持費と、店側が負担する費用が山のようにのしかかってくる。そうなれば、商品1個あたりに店がかける費用は原価150円どころでは済まなくなる。その、手塩にかけた1個がもし盗難の憂き目に遭えば? それはもう、小売店にとっての絶望だ。1回ならず何度も起きたとすれば、ハルマゲドンがごとき様相を呈する。
そのハルマゲドンを止めるための橋頭堡を、私は今から築き上げんとしている。
あの少女は果たして来るだろうか。何度もやっている風ではない。しかし、魔が差すことに関しては一度や二度ではないだろう。何より、少女を逃がしたのは私の判断だ。毒を喰らわば皿まで、しっかりとけじめをつけるつもりだった。
午後9時。仕事帰りのOLを装って、何気ない顔で入店。怪しまれないようにさっと視点を巡らせ、監視カメラの位置を確認。
(……数自体は少なくない)
それとわかるものばかりがカメラではない。呼び込み用の曲を流すラジカセに実は……というパターンを、前に聞いたことがある。万引き犯にとって、格段にやりにくくなっているのは間違いない。
私はカゴを持って、店内をぶらぶらと歩き回っていた。40分程度ならそうしていても怪しいことはない。客層はまちまち、仕事帰りのサラリーマンや塾帰りらしい学生なんかが中心だ。
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