トレジャーハント Ⅺ

「……」

 現れるとすれば宮藤みやふじさんだと思っていた。加賀見かがみでも不思議ではないが、筋が通っているのは宮藤さんの出現だろう。

 しかし、どちらでも大差はない。どちらにせよ私の拘束を解いてくれるという可能性は限りなく低いし、またどちらにも黒幕の疑惑は付きまとっている。

「まったく、手間かけさせて」

 加賀見は嘲るようにそう言って、私を軽く蹴った。薄暗い中でよくわからなかったが、私はそのかおを睨みつける。

 何か言ってやりたいが、私の口は塞がれている。

「本当はこのまま朝までここにいてもらってもいいんだけど、、直前になって逃げやがったし……私一人でなんとかするしかない」

 加賀見は億劫そうに言って、拘束された私の身体を抱き起こした。

 、とは、十中八九、宮藤さんのことだ。逃げた……つまり、二人が何らかの意図で共謀していて私のことを嵌め、給湯室に転がした…ということでいいのだろうか。なにせ状況が状況なので、湧いた疑問を解消することができない。

「一応伝えておくけど、あなたをここまで縛り上げたのは宮藤だよ。丹念に、時間をかけて……逃げ出せないようにってね」

 私を部屋の外に運び出し、社用の台車に載せながら加賀見は言った。事実であってもそうでなくても、私が身動きを取れないことには変わりない。

 加賀見はかなり苦労していた様子だったが、最終的には私を載せた台車を転がすことに成功した。私も、抵抗に意味を見出だせず、なすがままとなっていた。

「……で、これからどうするか……なんだけど」

 ゴロゴロ、ゴロゴロ……人気ひとけのない社屋内に、台車のコマが転がる音が響き渡る。変な話、ゴルゴダの丘に向かっているような気さえ覚えた。この場合、十字架にかけられるのは一体なのか、見当はつかないけれど。



「……正直私じゃ、これ以上は無理かな……あんまり頭いいほうじゃないしね」

 やや弱気な口調で、加賀見はそう漏らした。虚言やハッタリで相手を翻弄することはできても、本質的に相手を陥れて操れるほど賢いわけではない。加賀見自身もそれに気づいて、それに合った生き方をしてきたのだろう。

 かつての親友だった宮藤さんは、加賀見のこの厄介な性質に気づいていたのだろうか。気づいてはいただろうが……疎遠になっていく前でも後でも、彼女への同情や憐憫を覚えたことはあったのだろうか。


 どんな理由があるにせよ、二人はパートナーで、親友で、信頼し合っていて、それでも袂を分かたった。それは事実だ。

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