トレジャーハント Ⅸ

 宮藤みやふじさんが、若い男と親しげに腕を組んでいる写真。

 ブラフだということはわかる。加賀見が私を、私たちを嵌めるための罠だ。単純に動揺を誘っている。

 それでも、そうだとわかっていても、生まれた疑念をかき消すことはできない。


 待ち合わせの駅まで急ぐ。夜も更けたが、宮藤さんはどうするつもりなのだろう。私の家に泊めても良いのだが、私はあいにくと実家暮らしだ。いきなり宮藤さんが転がり込んでくるのも家族にとってはありがたいことではないだろう。

 しかし、宮藤さんは自宅には戻れないという。今でさえ、誰かの尾行があるかも知れないというのに、彼女の心労は計り知れない。そうなるとビジネスホテルか、どこかのインターネットカフェということになろう。

 電車に揺られながら、私は溜め息を吐いた。



 所定の駅に到着。待ち合わせた時間にはまだ早かったが、ベンチに腰を下ろす。

「……」

 写真を取り出す。眺める……心がざわつく。しかし、どこかで冷静になっている自分がいる。

 ブラフだ。。自分を信じろ、疑うな……しかし、それは他者に依存しない選択だ……ここで宮藤さんを信じ切れなくなったら、どうする? 私はなんのために?

 答えは初めから明確で、私は「宝探しトレジャーハント」の報酬が欲しいだけだ。いざとなれば全部かなぐり捨てて、会社を辞めてしまえばいい。

 いい筈だ。

(……どうして)

 写真を持つ手が震える。いつも真面目で、表情をほとんど変えない彼女が、この写真の中で……男の隣では笑い、そして今日、私の前では涙を見せた。

(宮藤さん……)

 なんとなく、加賀見の気持ちがわかるような気がした。を、きっと加賀見も見ていたんだ。

 同情的になるなと、心の中で自分を律する。宮藤さんを信じている、否、信じようとしている自分に気づく。

 駄目だ、。何度も、何度も言い聞かせる。しかし、この二葉の写真が、私の心を蝕んでやまない。


 私は立ち上がった。向こうから宮藤さんが歩いてくるのが見えたから。時刻は午後9時。この晩のうちに、すべてが解決するのなら。

 私はそれを願っている。





「宮藤さんっ」

 私が駆け寄ると、しかし彼女は青ざめた表情かおで。

「宮藤さん……?」

大峰おおみねさん、いい? よく聞いて……

「……!」

 緊張が走る。同時に、疑問が湧く。

「……だったら、ここで会うのは駄目なんじゃ」

「――それはね」

 宮藤さんがそう発した瞬間、私の意識は途切れた。後頭部に感じた衝撃と共に。


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