快眠業者 ⅩⅩⅩⅣ

 あまり訝しむような目線を送られると、罪悪感が湧いてしまう。尤も快眠請負人にくっついてきたのは加奈かなのほうなのだが。

「……いいでしょう、求められれば説明はします。それで……つまり、思考を重ねて支配する、というのが、基本的な形式になります。リンクさせる、というとわかりやすいでしょうか。つまり、脳が身体を動かす信号に割り込む……というような形なのですが、欠点はあります。対象の意志があまりにも強すぎる場合などは、私の能力は通用しない……一種のセーフティのようなものなのか、私による介入を許さないのか、兎に角、これは万能の能力ではない」

 快眠請負人は言葉を切り、ペンを走らせていた紙をこちらに回した。

 ……わからない。何が書いてあるのやら、全く要領を得ない。

「図示はしておきました。わからなければこちらをご覧になってください」

 ご覧になるべき「こちら」が全くわからないときは、どうすればいいのだろう。



「支配、って仰ってましたよね。事実として、私もそれを体験はしています。自分の思考なのに自分じゃないっていうか……そして、そのことにも気づけないんです。後で思い返せば、確かに変で、道理が通ってないなっていうのはわかるんですけど」

「要領としては催眠術に近いですからね。その分負担も大きいのですが……加奈さんあなたの場合、それらのデメリットを全て踏み倒した」

「えへへ……」

「まったく……凄まじい執念と言うほかありません。でも貴女のおかげではっきりしました、私の力は……つまりは、物理的な干渉に極めて弱い。主として相手の油断につけ込むのがです。そのために……相手との信頼関係を築き上げ、。卑怯ですが、他の手立てはなかったのです」

 さすがに、というべきか、この話題になると快眠請負人の表情は少し曇った。そんなことはない、そう無責任に否定できるだけの権利は、加奈には持ち合わせがない。

「だからなるべく、必要以上の信頼関係を築くことはしたくなかった。一定以上の信頼があれば充分だったんです。でも――」

「……わたしが、来てしまった」

「計算違いでした。今でこそ貴女のこと、受け入れてはいますが、当時は本当に頭を悩ませていたんですよ。どうにかして私から離れて欲しい、とそればかり」

 いい案も思いつきませんでしたし、結局貴女にやられましたが。言って、快眠請負人は自嘲気味に笑った。

「でも……今は貴女のことを、それなりに気に入っています」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る