トレジャーハント Ⅱ

 1週間、といっても週休2日なので、実質5日で、私は室内の領収書という領収書のデータを集め終わった。といっても、あの部屋にあったのが全てではないだろう。上手いこと誤魔化して、虚空へと消された記録もきっとある。データ化したものを宮藤みやふじさんに渡し、それで一旦は「秘密指令」も終了。また何かあったら呼ぶから、と言われ、私の仕事は普段通りの事務方に戻った。

 横領が事実だったとして、犯人は一体どこの誰なのだろう。幹部クラスが絡んでいるということだったが、その人は今も社内に在籍しているのだろうか? 幹部ということは私より一回り近く上の宮藤さんと同期か、さもなくばもっと歳上の……役職ポジション的には私よりもかなり上とみて間違いないだろう。虎穴に入らずんば虎児を得ず、とはいうし実際虎穴の入口あたりをブラブラしていたのは分かっている。ただ、実感として「危うき」に近寄った感触はなかった。


 そんな風にして、いつも通りの日々を過ごしていた私に、から呼び出しがあった。呼び出しといっても軽いもので、昼休みのタイミングを見計らって声をかけられる程度のものだったが……。

 宮藤さんからもないし、すっかり「宝探し」のことは頭から消え去りかけていた矢先のことだった。

大峰おおみねさん。この後、時間ある?」

 声をかけてきたのは、加賀見かがみという、宮藤さんよりもさらに立場も年齢としも上の女の上司だった。といっても、週初めの朝礼くらいでしかその姿を拝むことはなかったが。

「時間、ですか……」

「手間は取らせないよ、2、3訊きたいことがあるだけ」

 私と接点があるわけではない。とすると……「宝探し」の件だろう。私が言い出すまでもなく、先方からその話題が切り出された。

「……ずっと前にうちで横領があったんだけどね」

 自販機の陰に連れ込まれ、肩を抱くくらいの距離まで接近される。耳打ちに近い形で、早口にそう言われる。

「……そうなんですか」

 ここは知らないふりをするのが得策。そう思ったが、加賀見の視線は全てを見透かしているかのようで。

「あったの。規模の小さいやつが複数回。総額では1億を超えるとか」

 早口でまくし立ててきた。そんなになるのか。

「でね、その横領にはオトコの陰がちらついてて……」

「どういう……?」

「だから、横領を働いたのは女性社員で、その相手の男の人ってのに家庭があって……要は不倫。そのための軍資金に横領を」

「……」

「……でね、その女性社員が……宮藤さんだって噂がある」

「……!」

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