結婚!

 号外が刷られ、街角で配られている。

『王族の皇女が同性結婚!』

『兄・バルト氏胸中語る』

『相手は資産家? 王室内は祝賀ムード』

 そのうちの一枚を取り、懐にしまい込む。帰ってからゆっくり読もう。それを考えるだけで口角が上がった。


「ただいま」

「おかえり!」

 弾けるような笑顔が私を出迎える。

 サリアナ・ランファルト=モーグスティス。モーグスティス王家本流の嫡子にして第二王女。正統王位継承者のバルトを兄に持ち、彼に王族の未来を託して、未だ気ままに世の中を見て回りたい! と遊んだりしている、有り体に言うならじゃじゃ馬娘で……私の恋人だ。否、もうすぐ奥さん、ということになるのか。

 サリアナは現在、王室内に影武者を立て、下町にある私のアパートで暮らしている。王室とは似ても似つかない環境だろうに、彼女は不平ひとつ言わないで私に料理を作ってくれたり、お風呂を洗ったりもしてくれている。

「イェルタ、お疲れ様。先にお風呂どう? 湧いてるよ」

「ありがと。じゃあいただこうかな…でもその前にこれ」

 外套のポケットからさっき貰った号外を取り出し、サリアナに投げ渡す。サリアナは一瞬きょとんとしていたが、紙面を読むとすぐさま表情を変えた。

「こ、こ、これって…」

「王室の広報さんが記者向けの通達をまとめて発表したらしいよ。これで私たちは晴れて……」

「ふ、夫婦!」

 サリアナは興奮したように手足をばたつかせた。否、実際に興奮している。照れと喜びが混じったような笑顔を朱に染めて、私にがばりと抱きついてきた。

「よかった……」

 サリアナは私よりも背が低いので、ちょうど顎の下くらいに頭が来る。なんだか昔飼ってた猫みたいだな、とちょっと思って、その頭を撫でてやる。

「この場合、夫婦ってどっちがどっちになるんだろうね?」

「そんなこといいよ、どうでも」

 そんなことより、とでも言いたげに、サリアナは私の頬にキスをくれた。柔らかく、彼女の匂いが弾けるような優しいキスだった。

「ねぇ、イェルタ」

 エプロン姿の、どこからどう見ても町娘だがしかし溢れ出る気品を隠しきれないサリアナ王女は、くるりと1回転しながら提案する。

「諸々の手続きが済んだら、二人でハネムーンに行きましょう? うんと豪華で、最高の!」

 両手を広げてみせる。

 ここに至るまでにあった様々な苦労を思い起こす。惚れたのは私のほうだ…王室を抜けるとか、そういった話まで飛び出した。サリアナにもバルトさんにも迷惑をかけたと思う。

 だから。

「うん。勿論」

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