In The Sky

 ものすっごく強い向かい風を浴びたときのように、全身に見えない抵抗を感じた。

 まぁ、空気の塊という意味ではさして違いはないのかもしれないが。

「いや……大違いでしょ」

 セルフツッコミ。宙ぶらりんで。


 信州地方のレクリエーションがひとつ、バンジージャンプだ。大学のサークルの卒業旅行で行くことになったのだが、初手からこんな所に来るなんて様子がおかしい。それも女子5人固まってこのありさまだ。もうちょっと女子力とか、そういったものが仕事をしてくれれば良かったのだが、ここにいるのは幼稚園か小学校の頃に同級生男子を殴り飛ばして泣かせた頃のメンタルを今なお保持している蛮族ばかりだ。よりにもよって旅行の初っ端で宙を舞うのはやはり間違っているのではないか? とやんわり箴言してみたのだが、誰も聞く耳を持たなかった。

 バンジー自体は怖くない。むしろこんな高さから飛び降りて空中を彷徨えるのはなんとも心地いい。ほぼ自由は利かないけど。ひと通りびよんびよんとなるのを楽しんだのち、手元のワイヤーを引っ張って、そろそろ上げてくれいと意思表示する。私の身体はするすると引き上げられていった。

「あっれ? 案外ビビってない」

「あんな嫌そうだったのに……」

 バンジー台の上では、肩すかしを食らったような表情かおの…つまりは人の心を持ち合わせていない蛮族系女子どもが待っていた。友人とはいえ非常に腹立たしい。

「だってわたしバンジー自体は怖くないんだもん。で? 次は誰?」

 顔を見合わせる。彼女らの表情には、どこかおそれのようなものが感じ取れた。

「何、もしかして怖い? いい歳こいて?」

 それはそれは。ずいぶんと可愛らしいところがあるじゃあないですか。でもだからといってわたしだけを人身御供にはさせんぞ。

「うん……ここは1季歩きほに譲ってあげようかなと」

 おのれさくらわたしが地味に気にしていることを。浪人で+1された年齢のどこに瑕疵があるってんだ。ちなみに季歩というのはわたしの名前。おしゃれなので気に入っている。

「ふぅ~~~ん……そっかぁ、なるほどなるほど。つまり飛べない奴らの集団…意気地なしさんたちの集団。なるほどなるほど?」

 こうなればこっちのもんだ。煽るだけ煽り倒してやる。それで泣いて謝ってももう許さない。

「……そう言われると」

「飛びたくなってくるな」

「煽り耐性低いもんねあたしら」

 よしいいぞ。覚悟を決めろ。てか最初からそうしてろ。


 こだまする悲鳴のなかで飲むコーヒーは美味かった。

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