騎士のホコリ
騎士勲章が朝日を受けてきらきらと輝いていた。
ノーブル・ナイツ。高貴なる騎士団という、いかにもな肩書きで修飾されたその軍団は、帝国が戦争に勝利してより120年、贅の極みを尽くす貴族たちの間で半ばステータス代わりに組織運用されてきた。
なにせ帝国には敵がいない。立憲君主制、さらに自由経済方式をとる王国にとっては、騎士団を組織しても維持費用をかけるメリットが少ないのだ。その点、ある程度は「国」のしがらみを離れ、かつ莫大な富を持つ貴族たちに騎士団の運用を任せるというのはいいアイデアだった。国は他の部分に費用を回せる。万一の際には貴族たちから借り受ける、という形で指揮権を譲渡してもらうということも可能。帝国にはメリットしかなかった。
そういった小難しい話が、弱冠18歳にして「騎士団長」の大役を仰せつかったわたしに関係がないとしたらそれに越したことはないのだが、残念ながら騎士団長たるものその成り立ちを空で説明できなければその肩書きを名乗る意味がないらしい。別に普通の暮らしとやらに興味があったわけではないし、剣を振るうのも好きだからそれはそれで構わないのだが。
「ほら団長。次の角、右です」
副団長に促され、わたしは我に返った。すぐに愛馬の手綱を引いて、衣服点の角を右折する。
きょうはパレードだ。騎士団の威厳を示すために、決められたルートを馬に乗って練り歩く。一応華々しいイベントの筈なのだが、ギャラリーはまばらで騎士たちにも覇気がない。わたしが号令をかければしゃんとするだろうか。男の騎士に命令されるよりはずっといいだとかなんだとか、前に愚痴っていたような気がする。
…次の広場に着いてからでいいや。わたしは半ば諦めモードに入って、ゆるゆると馬を動かした。
120年前、皇帝直轄の兵隊たちが他国の侵攻から守り通す陣地を張ったとかいう広場がここである。記念碑まで建てられている。それはいいのだが、たとえば本当にここで戦争が行われていたのだとしたら、今ここに着くなり芝生に寝転んだり歌を歌い始めたり、挙げ句隠しておいたらしいスキットルで一杯引っかけるやつまでいるうちの騎士団はどういう罰を受けるべきなのだろうか。いや、ご先祖様が許してもわたしが許したくない。
「……こほん」
意気消沈の副団長を尻目に、わたしは咳払いを一つ。
「整列なさい同胞たちよ! この広場がいかなる場所か知っての行いなの!?」
わたしの声に、ようやく騎士たちが慌てるそぶりを見せ始めた。
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