写真部

 三宅みやけゆずは人見知りをする体質で、ともすればそれが彼女を「写真部」へと駆り立てる動機にもなったのだったが、入部1年を経ようかという頃、新たな問題が噴出した。


「取材、ですか」

「そうよ」

 部長で3年の石上いしがみ真紀まきは無造作に言い放った。ぶっきらぼうでストイックだが、困ったときにはちゃんと手を差し伸べてくれる、他部に曰く「部長としての理想像」。柚香はそうは思わない。助けてもらったことも彼女のアドバイスが的確だったことも沢山あるが、概ね気弱な柚香に対して手厳しいのだ。嫌い、とまでは言わないが、どうにも肌が合わないと感じていた。

「…あの、わたし、人が話すのが苦手でこの部に入っ」

「知ってる。何回も聞いたよ」

 またか、とでも言いたげに、真紀は大げさな溜め息を吐いた。

「それくらいできないでどうするの。5月の連休明けたら1年が入部してくるってのに、そんなんじゃ示しがつかないよ?」

「……」

 別に後輩に対して偉ぶろうとか、そういうつもりはない。そもそも部活に入ったのだって、単に内申点を考えてのことだ。出ろと言われたら即座に辞めるつもりでいる。

 しかし、だからといってこの1年で写真に…撮ることに愛着が湧かなかったか、と問われるとウソになる。できればこの活動を続けたい。取材、ということはとどのつまり、他人におうかがいを立てることだ。他人と会話をし、条件を提示しつつ交渉し、場合によっては柚香はどうあってもそういうのが苦手で、さりとて乗り越えていかねばならない壁であることには変わりはない。

「……わかりました。やります」

 途端に真紀の表情が緩む。

「よろしい」

 しかし続く柚香の言葉を聞くと、すぐにに戻る。

「ですが、条件があります」

「……言ってみて」






 部の広報誌に大きく刷られた梅の花の写真は、新入生にも大好評で、入部届は単純計算で昨年度の3倍にまで膨らんだという。

「…半分は私の功績だから」

 記録をまとめながら、言い含めるような口調で真紀がのたまう。確かに柚香は条件として、真紀に取材への同行を依頼したが、それでも取材に関して本格的なネゴをやったのは柚香のほうだし、そこまで大きな顔をされても困る。

「でも、部長が撮った梅のほうが綺麗でしたよ」

 広報誌に掲載されたのは、バランスの問題から柚香が撮影したほうだったが。

「何それ。嫌味?」

「いいえ本心です。たぶん」

「はっ……」

 軽口を叩き合いながら、柚香は真紀との距離の縮まりを感じていた。

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