翼の活路

 迂闊だった。

 よもやこのような険しい山岳地帯。人間どもが根を張っているとは思いもよらなかった。ちょっとしたショートカットのつもりで飛んだのが間違いだった!

 私ともあろうものが、有史以来の「監視者」ともあろうこの私が、つまりは人間ごときの――あの、コーシャホーとかいう、訳のわからない高さまで届くおっそろしい兵器で……こんちくしょう! つまり撃ち落とされたのである。





 ……でもまあ、翼の怪我もすぐに癒えたし、人間どもは私を天の使いだ! とかいって殊更に持て囃してくれるし、気分はそこまで悪くない。食事も美味しいし。

 有翼種……人間どもにいわせれば私はとにかく珍しい種であるらしく、最初は気味悪がったり恐れたりしていた人間どもも、王都から招聘しょうへいしたガクシャ? とかいうのが来てからはそこまで過剰に恐れることはなくなった。とはいえ相変わらず寝食を融通してくれるし、私からするとかなりありがたかった。

「すまないねぇ、痛かったろう?」

 いつもそういって私に木の実やらきのこやらを差し入れてくれる男は、どうやらくだんのコーシャホーで私を撃墜した張本人らしかった。曰く「なんか怪しかったからとりあえず撃ち落とした」。乱暴すぎる。

「怪我自体はどうってことは……奥さんの煎じ薬草がよく効きましたし」

 そう言ってえへへと笑う。この笑顔はここではウケがよろしかった。どうやら私、人間どもの中では「美人」カテゴリに属するらしい。マジか。

「それは良かったよ! 妻も喜ぶ」

 いや私は何一つよくありませんが。とりあえず愛想笑い。


 この村で暮らすうち、ひとりの女の子と仲良くなった。コーシャホー野郎の孫娘だとかで、若いがなかなか聡明だった。

「おねえちゃんはどこから来たの?」

「もっと、ずっと遠いところだよ」

「ほんとう!? この山よりも!?」

 キラキラと目を輝かせて彼女は言う。そうだよ、と頷いてやりつつ、つい口約束をしてしまった。

「今度連れてってあげる!」

「ほんと!!?」

 かわいいものには巻かれよ……というが、ここでこんなことになってしまっては、ここを発つ日が遠のきそうだ。幼女の目はますます輝いた。おねーちゃんだいすき! と飛びついてくる彼女を無碍にはできなかった。

「うん。背中に乗せたげる」

 その代わり……と彼女に提案する。

「おばあちゃんの薬草、何株か貰えないかな?」





 有翼種…「監視者」と人類種の交易はかくして始まりを迎えたのであるが、それはまた、別のお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る