色彩、萌えて

「次」

 司会者の冷淡な声が響く。少女は、鉄の足枷をがらり、と動かして壇上に歩み出た。

「アングロ・サクソン、赤毛、身長5フィート2インチ。年齢としは18、体力旺盛、焼印しるしあり……500からスタートです。どうぞ」

 自分が「商品」としてられる感覚。肌の内側を虫が這うような嫌悪感。少なくとも14の頃までは、欧州の片田舎で平和に暮らしていた。それが崩壊したきっかけが3度目の世界大戦であることは、国連の徹底した隠蔽工作により、少女には知る由もなかった。手首も足首同様、枷をつけられて自由が奪われている。アンダーグラウンドで肥大化した犯罪組織に拐われてから最初の一年は、隙を突いて逃げ出そうとすることもあった。逃げた先に電気鞭しかないということを知って、いつしかそれを諦めた。

 少女の濁った目が、ほつれた前髪越しに客席を睨んだ。いずれも丸々ふとった、趣味の悪いスーツの中年男ばかり。の成功者だ。少女は既に心を失っていた……年齢からいって、次こそ性奴隷だろう。自分に高値がつくことはよくわかっていた。

「900!」

「1000」

「……1200」

「…1500!」

 ああ、早く終わってはくれまいか。少女は諦観の眼差しを蠢かせた。



 と。

 会場の隅、並んだ粗末なパイプ椅子の最後列右端に、場違いな銀髪の女がいるのを認めた。雪のような長い髪に真っ白な肌……少女の眼に光を宿すほどの、まさに目を見張る美人。パンツスタイルのダークスーツを着こなし、長い睫毛を伏し目がちに瞬かせる。何にも興味がない……といった風情で、腕と脚を組んで傍観していた。

「2100」

「2500!」

「2800だ」

 あのひとに買ってもらえないだろうか。妄想同然の思いが少女を支配する。あんな綺麗な人に買ってもらえたら、例え性奴隷で、酷い扱いを受けたとしても…少しは慰みになるだろうに。

「3000!」

「3500!」

「3800だっ」

 最高値だ。こんな高い値段が自分についたことなどない。少女の瞳に再び翳りが宿った。


「――では、3800で落札と……」

「50000」

 鋭く、冷たく、されど美しい声。会場全体が呆気にとられ、水を打ったように静まり返る。

 女……先程、少女が憧憬の眼差しを向けていた、ダークスーツの彼女。怜悧で切れ長の美しい眼を気だるげに少女へと向けながら、女は……薄く笑った。

「50000でお願い。この場で払います」

 少女もまた、溢れる笑みを抑えることができなかった。

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