傷心
いわゆる
これで精神をやられるほどヤワな女じゃない、と自覚はしているものの、やっぱり辛いものがある。引きずりたくはないものだが……。
「そこのお嬢さーん! 浮かない顔してどうしたんですか?」
鉄柵にもたれかかって海を眺めるわたしに、背後から声がかかった。顔見えねえだろそこからじゃ。
振り返る。陽気そうな、というか軽そうな女が立っていた。髪を明るい茶に染め、縁ありのサングラスを着けてにやにやと笑っている。軽そうというより、チャラそう。
「……もしかしてフラれた感じ?」
ちょっと睨みつけてしまったからか、女はやや引いて訊ねる。
「そうです」
キッパリと答える。あんまりこのことで長々と話すと、わけも知らず涙が出てしまいそうだった。
「あちゃ……まぁ、いろいろありますよね、人生ってのは……」
言いつつ横に並んでくる。こいつアレだ、体育会系だ。高校の運動部のノリを持ち越してやがる。わたしは文化系だったから、そういう陽キャラみたいなのとは縁がない。
「タバコ、
「……禁煙してるんで」
彼女……別れた彼女に、ヤニ臭い、と暴言を頂いてから、あの細長い筒を口に銜えることはなくなった。
女は勝手に喫い始めた。久々に嗅ぐ匂いだった。わたしが常飲してたのと同じ銘柄らしかった。
「ねぇ」
「なに?」
「ここで会ったのもなにかの縁ですし、二人でどっか遊び行きません?」
「はぁ?」
素っ頓狂な声が出る。遊びに? そういや来る途中に遊園地があった気がするが。
と、ここではたと気づく。これ、もしかしてナンパでは?
「私こう見えてバイクとか乗るんですよ〜」
手をハンドルの形にして、女はどうやら乗り気らしかった。そうやって日が暮れるまで遊んで、夜はホテルでしっぽり…という魂胆だろうか。
……それはそれで、案外悪くないかもしれない。ワンナイトラブに罪悪感を覚えないのは、失恋に暮れる人だけの贅沢だ。
この女はこうやって、失恋してると思しき女性を見つけてはコナをかけて抱いているのかもしれないし、または純粋にデートを楽しみたいだけなのかもしれない。結果はあとからついてくる。
何より。
「あっほら、おねーさん、私カラコン入れてるんですよ〜。どうです? これ」
サングラスの奥の彼女の眼は、とても綺麗でまっすぐだったから。
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