ゆけむり慕情
「さっむい……」
全身をがちがちと震わせながら、すっぽんぽんで石畳を踏みしめる。冬だろうとなんだろうと、露天温泉に行くためには、何が何でも人は衣服を全部脱がねばならない。
元来寒さというやつは苦手だ。苦手なのだが、どうにも雪で白く染まった景色というのが好きらしく、寒い寒いと繰り返しながらわたしはよく冬季になると北日本の山間部に足を運んだ。
観光地を見て回ったあとは、宿に併設される温泉や風呂で癒やされることにしている。裸で歩かされるもの、脱衣所からすぐに湯舟があるもの……形態は様々であるが、少し我慢すればすぐにでもアッツアツの湯にありつける。今回は少し歩いた。
「はぁ〜〜っ……」
タオルを頭に載せ、湯の中に深く身を沈める。平日夜、わたし以外に人影もない。日本酒でもあれば良かったかな、ぼんやりとそんなことを想いながら冷えた身体を温める。
と。
「あのぅ」
上から声が降ってきた。ふぇ、と間抜けな反応をし、声に視線を向ける。
純日本人、This is 大和撫子、そうとしか形容できない、それはもうとんでもない美人がそこにいた。夜会巻きにした髪はきれいに艶めいていて、切れ長の目は長い睫毛を伴ってあたかも工芸品のように輝いている。高い鼻、牡丹色の唇……端整な顔立ちに見つめられると、ガラにもなく心臓の鼓動が早まるのを感じる。
「ご一緒してもいいかしら」
上品な鈴を転がすような、声と呼ぶにも不適切なほどの心地のいい音が言葉のかたちをとって響いた。どうぞということすらできず、口をぽかんと開けたままわたしははい、と頷いた。
「ありがとう」
彼女はにっこりと微笑んで、すらりと伸びた健康的な肢体を湯に沈めた。乳白色の頬は体温の上昇に伴って朱に染まり、彼女の表情はたちまちに
……これは。この胸の高鳴りは……?
ほぅ、と長く息を吐いて、彼女はその肩をかき抱いた。美人であることは間違いないのだが、そこに誰をも「かわいい」、と言わせる魅力が伴って、彼女はもはや危険なまでの存在になってしまっている。おまけに所作のひとつひとつにえも言われぬ色気があった……このままではのぼせてしまう、わたしは冬が苦手なのに……と必死で別のことを考えんとしても、目の前の楽園じみた光景に、ただ視線が吸われていく。
「いいところですよね、ここ」
私もよく来るんです、と再び微笑む彼女に、わたしはソ、ソウデスネ、とカチコチの返事を送ることしかできず……しかしただ、ただこの時間を堪能した。
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