ある休日

 日本列島というのは案外広いものだ。国土の70%近くが森林であるにもかかわらず、人口密度が世界一位を誇るのは、近代の科学技術の発展もあるがひとえに、日本人に特有の「寄って集まる」傾向が強く出たものなのだなぁ、と、路面と電柱と看板以外の人造物がとんと見えてこない日本海側の国道をカッ飛ばしていると切に思う。

 有給を取ってまで愛車を走らせていると、現代社会のストレスや煩わしさを、ひとまずは忘れられるような気がした。車は660cc……即ち軽自動車だが、専用設計のスポーツ2シーターだ。とはいっても、製造からじきに30年を超えるような車種であることも確かで、現代の車を基準にを考えると色々と心許ないのも確かである。バブルに沸いた平成初期の日本を象徴するような、趣味性の高い車だった。

 その心許なさのひとつに、車内の狭さが挙げられる。私はカーナビが示した道の駅で、小休止を取ることにした。


 田舎の道の駅というのは、利便性と引き換えに開放感や品物の新鮮さで分がある。ちょうど人もいないし、あちこち見て回るのはいい気分転換になった。

 私は一抱えもある大きな白菜としいたけの佃煮を瓶詰めにしたのと、かわいい木彫りのペンダントとを買った。どれも住んでいるところで手に入るものばかりだが、場所が違うとクオリティに雲泥の差がある。支払いに際しては人がいなさすぎてセルフレジを疑ったが、声をかければちゃんと奥からおばさんが出てきた。世間話をしつつ会計を済ませて店外に出ると、私の車をまじまじと見つめる女性の姿があった。まだ少女といってもいい年齢としごろだ。

「何してるのー?」

 非難するつもりはないので、なるべく優しく声をかけたつもりだったが、彼女はびくりと身を震わせた。職場でも声が怖いと言われる。低いわけではないのだが。

「…カッコいいなぁって思って」

 答えた彼女は、続けて、お姉さんの車ですか、と問うてきた。私はそうよと言いながら、トランクに買った物を放り込んでいく。

 そして、未だ目をキラキラさせて車を見つめる彼女に、ひとつ提案をした。

「良かったら横乗って、この辺ドライブでもする?」

「いいんですか!?」

「もちろん。ただし……」


 私は彼女を隣に乗せ、道の駅の駐車場から出た。助手席の彼女はその膝に白菜を抱えている。

「な、なるほど」

「場所がないからね。ごめんだけどちょっとの間お願い……それじゃ」

 飛ばすよ! と一声。8500回転まで吹け上がったエンジンは唸り、国道を北に突き進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る