トークタイム

 じまれい、39歳。まさかこの年になって、待ち人に心を躍らせることになるなんて。私は腕時計とにらめっこしながら、相手の到着を待っていた。今の旦那と初めてデートしたときでもこんなに浮き足立ったかどうか。

 会う相手とはいわゆるチャットアプリで知り合った。プロフィール欄によれば19歳の女子大生。「」は無しで昼間だけのデートを楽しみたいとのこと。

 娘ほども歳の離れた女の子と会うのが、こんなにも嬉しいことだなんて! 気を抜くと笑みが零れそうになる。

 不意にスマホが震える。もう着きます、とメッセージが入っていた。それから間もなくして、ポニーテールを結わえたダッフルコートの女の子に、小嶋さんですか? と話しかけられた。


「わたし、年上の女性が好きなんです」

「でももう私、いい年だよ? こんなおばさんと話したってしょうがないと思うんだけど」

「そんな! まだまだ若いじゃないですか」

 さか優里ゆりと名乗った彼女は、笑顔が素敵な元気印の娘さんであった。私の娘と同じか、下手したらさらに若い。

「旦那さんとお子さんがいらっしゃるんですよね」

 並んでジェラートを食べ歩きながら、優里が問うてくる。私はそうよ、と答えて口の中にオレンジ味を放り込んだ。秋口にこのチョイスは少々寒いかもと思ったが、今日は小春日和で暖かく、丁度いい。

「どうしてわたしと?」

「そうねえ……」

 理由はいろいろある。専業主婦として、ちょっとした刺激が欲しかった……とか。進学した娘は一人暮らしでいなくなり、そのせいか旦那との会話も目に見えて減ってしまった。出会い、というほど大それたものでもないけど、友達を見つけるような感覚だった。

「なるほど……」

 優里は納得した様子で頷いた。

「優里さんはどうなの?」

「優里でいいですよ。わたしは……そうですね、母がいなくて。幼い頃に父と離婚して、わたしは父方に引き取られたんです」

 意外と重い話が来てしまった。反応に困っていると、優里はふっと表情を緩める。

「だから、なんとなく歳の離れた女の人に憧れてるところがあって。だからわたし、麗子さんに出会えて良かった」

 こちらこそ、と微笑み返す。じんわりと胸の奥が温かくなった。

 そうだ、次はクレープ買いません? 良いかも! と、彼女の提案に乗る。目一杯楽しんで、写真も撮って……とにかく充実した時間を過ごした。


 別互いのメールアドレスも交換して、別れる。また会いましょう、と約束を残して。

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