美しく汚い世界
不知火 螢。
第1話
これからお伝えするのは、しがない女性の過去のお話です。
共感される方、こんなくそみたいな人間初めて知ったと思われる方がいるでしょう。
ただ、私は彼女の話をしたいのです。
彼女は地方都市に住む四人家族の末っ子でした。
父親は大きな企業の忙しい部署にいる仕事好きな人、母親は県内で有名な短大を卒業し、パートタイムの仕事をする主婦。年の離れた兄は県内トップの高校をを卒業し、鉄道会社に務めています。
そんな家族に囲まれた彼女は、出来損ないだと感じていました。
高校、大学共に第一希望の学校には縁がなく第二希望の学校に通い、自動車の免許を摂るにも、他の資格をとるにも余分にお金がかかる。そんな子でした。
兄は1発で資格を取り、目標としていた学校よりも頭の良い学校に入学し、考えていた就職先よりも良い会社に就職した、そんな勝ち組の人間です。彼女は兄が失敗するところ、落ちるところを見たことがありませんでした。
父親も有名な国立大学を卒業した人で、とても頭の良い人です。母親も頭が良く、お金さえあれば四年制大学に進学出来た人でした。
彼女の身近な人は、彼女が考える勝ち組そのものでした。
彼女は、幼い頃から母親の理想としていた女の子ではなく、活発で木に登ったり、虫を捕まえたりする女の子でした。
そんな中、明確な自我を持つようになってから、彼女はこう考えました。
「なんであたしは女の子で、お兄ちゃんは男の子なんだろう」
兄は虫嫌いで、痛いのが嫌いでどちらかと言うと大人しめな男の子でした。
彼女が思う女の子の要素を、兄は彼女よりたくさん持っていたのでした。
そんな兄が近くに居て、彼女は「性別が逆だったら、ママは喜んだのかな」なんて考えた時もあったようです。
自我を持ち始めてからの彼女は、母親が買ってきた女の子らしい服を尽く着ませんでした。
小学校時代の彼女で女の子らしいと言える場所は、一人称と長い髪。そんなくらいでした。
中学に上がったら彼女は、部活動で演劇を選び、母親を驚かせました。母親はあまり入って欲しくなかったようでした。
「ママが求めているものと、あたしは違うんだ」
彼女の中にこの気持ちが大きく残りました。そして、「あたしがやりたいことは受け入れて貰えないのかな」と考えるようになりました。
そして、母親のある一言により、母親に自分のことは理解されにくいことだと認識してしまいました。
母親は、兄の趣味にどんどん影響されていきました。プロレス、ドラマ、アーティスト…。兄のプレゼンが良かったのでしょう、彼女の脳内には、母親の趣味=兄の趣味という方程式が出来たのでした。
そんな中、彼女は初めてCDを買いました。母親に「こんなの買ったよ」と報告した時、「ふーん、こんなの好きなんだ。ママはあんまり」
この一言で、自分のことを受け入れてくれる人ではないと彼女は感じました。
彼女はなんでこの家に生まれ、この家族の一員として生きて、この世界でまだ生きているのか。そこに疑問抱くようになりました。
ここから先は、彼女が彼女である理由を探し、自分はここに居ていいと感じるまでの話となります。
貴方はまだ彼女についての話を聞きますか?
美しく汚い世界 不知火 螢。 @Kiruahobby8317
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