第16話 その右手で暴け

 スケッチブックに、鉛筆をサッと走らせる。

 目で見た形を掌に乗せて、描き出す。より鮮明に。より正確に。

 対象の魂の形総てを――紙の上に叩き込む!


「! 手を止めろ、まどか!」


 突然、横で見ていた白川さんが声を上げる。それに驚いたウチは、言われるままに手を止めた。


「見ろ。……コイツだ!」


 言われて、今描いていたスケッチの絵を見る。そこには――。


「……!」


 思わず、息を飲んだ。そこに描かれていたのは、明らかに人間ではなかった。


 三角に尖った耳。長く前に伸びた口元。その先についた小さく丸い鼻。

 何より、全身を覆い尽くす長い体毛。


 狼男。そうとしか言い様のないものが、そこには描かれていた。


「円、今、誰を描いた」


 真剣な表情で、白川さんがウチに問い質す。ウチは記憶を探りながら、監視カメラの画像の一点を指差した。


「えっと……この、一人だけ若そうな感じの、背の高い人……ですね」

「よし。守衛、清掃業者はいつも何時くらいに来る?」

「え? ええと……大体、夜九時くらい……ですかね」

「なら、それまでここで待機させてもらう。構わないか?」

「は、はぁ……」


 戸惑う警備員さんには悪いけど、仕方無い。狼男が本当にいる事が、こうして明らかになってしまったのだから。

 なら、これは間違いなく、ユーレイ課の仕事だ!


「……新米刑事って事になってる以上、君にも来てもらうけど、君は何もしないでいいよ。後は僕に任せてくれればいい」


 ウチにしか聞こえない声で、白川さんがそう告げる。ウチは大人しくそれに頷き、時が来るのを待った。

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