◆231◆酒は飲んでも飲まれるな

 「やはり、ここの酒は美味しいですな」


 アベガルさんが言った。ご機嫌だ。

 ロドリゴさんが用意してくれた宴の席。

 向かい側には、アベガルさん、マドラーユさんにコーリゼさん、ルイユが座っている。

 僕の列には、ロドリゴさん、ダイドさん、イラーノ。そして僕。


 おいしいとアベガルさんだけではなく、マドラーユさんもお酒を結構飲んでいるんだけど大丈夫なのかな?

 今回、アベガルさんは魔女などの話を振ってこない。

 身構えていたけど、大丈夫そうだ。マドラーユさんがいるからかな?


 「そうだ。一つ聞こうと思っていたのだが、ロドリゴさんとルイユはお知り合いですか?」


 唐突に、アベガルさんが聞いて来た。

 どういう意味だろう?


 「ここでそれを聞くのですか?」


 と、何故かロドリゴさんがそう返す。

 うん? 僕を見ている?

 ……あ! そうだった。

 前回は、モンスターの姿のままだったから会った事がない事になり、ロドリゴさんがルイユと会ったのは、今日が初めてって事になるんだ。


 「彼が連れて来ました……」


 ロドリゴさんがそう言うと、皆が僕を見た。


 「そう聞いたのか。信じたのかそれ?」


 アベガルさんに言われたロドリゴさんは、ルイユをチラッと見る。


 「まさかイラーノより先に、そういう人を連れて来るとは思わなかったですが……」


 「ほ、ほっといてよ」


 「あら、イラーノには私がいるじゃない」


 「………」


 マドラーユさんがからかう様に言うと、ロドリゴさんが本気で彼女を睨んだ。


 「あら何よ。素性もはっきりしていて、ルイユよりはいいでしょう? というか、よく許す気になったわね。彼女が何をしでかしたか聞いてはいるでしょう? アベガルさんも許しちゃったようだし」


 「別に許してなどいませんが? 連れて来たと言っただけだ。まずは二人共、一人前の冒険者になってからだな!」


 「そうだな。俺も監視はしている。それと、何度も言っているが、あなたが関与する事でもない」


 「ふん。絶対に何か企んでるくせに……」


 酔っているのか、小声にもなっていない。

 そして、コーリゼさんだってとぶつぶつ言っているんだけど……。


 「あなたの場合、教えて貰えなくて面白くないだけだろう?」


 「何よ。あなたなんて、職権乱用してるくせに!」


 あぁまた、始まった。

 ここに来るときも言い合いをしていたんだよね、この二人。

 巻き込まれないうちに逃げよう。


 「さて、僕はもう部屋に戻ります」


 「じゃ俺も」


 僕が立ち上がると、イラーノも続いて立ち上がる。


 「では、私も……」


 ルイユも立ち上がった。


 「あ、ルイユってどっちに泊まるの?」


 「どっちとは?」


 「だから彼の所に泊まるの? それとも宿?」


 マドラーユさんは、なんていう質問をしているんだ!

 さっきの流れからだと、ロドリゴさんが許さないって事になる。いやその前に、イラーノと同じ部屋なんだけど。


 「宿ですよ。ご心配なく」


 「だったらまだ付き合いなさいよ!」


 「酔っ払いの相手など、ごめんです」


 そう返すと、僕の方へスタスタとルイユは来る。

 さすがルイユだ。マドラーユさんにストレートに言った。

 僕達は、逃げる様に建物の外に出る。


 「ルイユ、覚えていたら明日、何か言われるよ……」


 イラーノが心配そうに言った。


 「あら別に私は、聞き流しますのでかまいません。それより向かいましょうか」


 ルイユの言葉に僕達は頷いた。

 これからキュイ達の所に行くつもり。

 僕達を尾行している者もいないみたいだし、皆が酒を飲んでいるからこっそり向かうにはちょうどいい。

 アベガルさんは、本当に一人で僕達を見張るみたいだ。

 まあ感知するアイテムを持たされてはいたけどね。そこら辺は、抜かりない。


 「どこへ行くんだ?」


 後ろから声が掛かり驚いて振り向くと、コーリゼさんだ。


 「びっくりした……」


 「俺も逃げて来た。で、どこへ行く? 宿はあっちだが?」


 街の外へ出る為に門へ向かって歩き出そうとしていた僕達は、冒険者ギルドの方を向いているが、宿は逆側だ。


 「主様のお部屋で少しくつろごうかと思いまして」


 「じゃ、俺も一緒に行くかな」


 「え……」


 僕が驚くと、コーリゼさんはクスッと笑った。


 「で、本当はどこへ?」


 僕の態度で嘘がバレたという、二人の視線が痛い。


 「しかたありませんね。彼もご招待しましょうか」


 「え!? ルイユそれは……」


 僕達は、街に来たキュイに会いに行くと言うのに、ルイユはそう言った。

 一緒に連れて行って大丈夫だろうか。

 結局追い返しても不信感が残るだけだからと、連れて行く事になった。

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