◇220◇疑い深いアベガル

 僕達は、あんぐりとルイユの話を聞いていた。魔女をこの目で見ていなければ、作り話にしか聞こえない話。


 「あぁ……ひとついいか? 魔女が復活したのは、封印が自然に解けたからなのか?」


 「自然ではないでしょう。ただ弱まっていたのは確かです。だからミューラがなんだかの衝撃を与えて、封印を解いてしまった。目の前にいる彼女を依代にしたが、一つの体に二つの魂に体が耐え切れず、彼女は息絶えた。けど、肉体保存の為に、ミューラの魂を体に留まらせていた。魔女の魔力でそれを行っていたのでしょう。だから魂が剣に移った時、ミューラの魂が解放され体は朽ちて行った」


 「……そ、そこまで詳しく言わなくてよかったんだが」


 アベガルさんは、チラッとコーリゼさんを見て言った。


 「……すみません。つい。コーリゼさん、ご協力ありがとうございました。おかげで、やっと魔女を消滅させれそうです」


 「いや。ミューラを解放できてよかった。俺の村では、魔力が極力少ないと思われる者が、封印の場所を見回っていた。剣は、封印されている魔女が復活した時に、エルフが現れその魔女を倒すとされて祭られていたんだ」


 そっか。コーリゼさんの先祖は、ルイユ達と一緒に戦った仲間だったんだ。


 「いつも一緒に見回っていたんだけど、ミューラ達が先に行った。俺は剣が好きで、いつも剣を拝んでから向かっていた。ところが、剣が俺の足元に転がって来た。そっと手に取り剣を鞘から出してみると、スーっと抜けた。今までは、誰も出来なった。俺もね。何か嫌な予感がしていたらミューラが封印を解いたって……すまない。俺がついていっていれば、きっとこんな事にはならなかった」


 「いいえ。いずれそうなったと思われます。たぶんミューラは、封印に対し好奇心があったのでしょう。だから触れてしまった。あなたが剣を持ち出さなければ、剣は壊されていたと思われます。ありがとう」


 ルイユがお礼を言うと、コーリゼさんは首を横に振る。

 10年間ずっと、ミューラちゃんと一緒に行かなかった事を悔いていたんだ。


 「どうやら俺は、危なく世界を救う者達を捕らえるところだったのか……」


 「信じるんだ、この話……」


 アベガルさんの呟きに、イラーノが言うとうむとアベガルさんは頷いた。


 「目の前で少女が消滅したし、一連の流れが一致する。お前達が結託し、少女を殺してまでも俺を騙していない限り、真実なんだろう」


 「真実ですよ。私がモンスターである事も主様が、チュトラリーである事も」


 「チュトラリーって、モンスターを操るテイマーみたいなものなんだろう?」


 アベガルさんが、僕を見つめ聞いた。


 「似ておりはおりますが違います。信頼関係で成り立っているので、我々は自分の意思で行動します。テイマーは、モンスターを強制的に命令通り動かすのです」


 「あぁ。何となくわかるかも。俺も近くで見ていたけど、友達の様な感じだったね。ジーンとか……リリ……」


 そこまで話しかけて、イラーノはハッとして口を閉じた。

 一度森の中で、ジーン達とアベガルさんは会っている。その時は、犬とウサギだ。


 「ほう。ちょっと聞きたいのだが、そのジーンってもしかして森で出会った動物達じゃないだろうな? よく考えれば、それならあんな場所にいたのもわかる。うん? 何故動物に……」


 そう言いながらアベガルさんは、バッとルイユを見た。


 「動物にも変化へんげできるのか!?」


 「出来ませんよ」


 アベガルさんの問いに、ルイユは簡素に答える。


 「本当か?」


 アベガルさんは、疑いの眼差しで僕に質問してきた。


 「で、出来ないと思う」


 嘘じゃない。変身しているんじゃなくて見せているだけだから……。


 「一体どんなカラクリが……」


 僕達が違うと言ってもアベガルさんは納得していない様子だ。やっぱり、アベガルさんは疑い深い。


 「その話は、後でもいいんじゃないか? それよりも魔女の事を話し合った方がいいだろう」


 コーリゼさんがそう言って、助けてくれた。


 「まあ、そうだ。で、本当にルイユがその剣で死なないとダメなもんなのか?」


 「殺す事は可能なのですが、輪廻をさせたくないのです。ですから私と一緒でないとダメなのです」


 アベガルさんの問いに、真顔でルイユはそう答える。

 ルイユが強くなったのは、魔女を殺す為じゃなくて一緒に魂を消滅させる為って事だよね?


 「ねえ、それってさ。魂に何らかの封印とかして輪廻する事はできないの? 例えば魔法を使えなくするとか。ルイユは、魂を強くしたんだよね? だったらそれの応用で、出来ないかな?」


 イラーノが驚く提案をしてきた!

 そんな発想が浮かぶなんて、さすがイラーノだ。

 僕達は、ルイユの返事を待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る