◇216◇ごめんね、ルイユ

 僕は、静かに頷いた。

 ルイユにとって僕は、悲願を達成する為に必要だった人物。何も出来ない自分をずっと助けてくれるわけだ。

 彼女は眷属お友達で僕の命令を聞いてはくれるけど、判断は自分自身でしていた。

 いつか来るこの日の為に、ずっと傍にいたんだ……。

 それでも僕は、ルイユが傍にいてくれてよかったと思う。

 ちょっと、いやかなり無茶な事をするけど、凄く助かった。だから僕しか出来ないのならやってみよう!


 「その子は、剣も魔法も使えないようだったが?」


 「やはり、盗賊を仕向けたのはあなたですか?」


 「いや違う。だがお蔭で発見できたわ」


 そうか。盗賊に襲われた時に、コーリゼさんがいたのを発見して、街に入ったのを見たから街を襲わせたのか。


 「あれ? でもなぜ盗賊に襲われていた時に、襲わせなかったの?」


 「私がいたからでしょう。10年の月日が経っている事を考えると、私が誕生したのを察知し、あなたは焦り始めた。だから人目に付かずに行っていた人探しをエルフにもさせ始めた」


 僕がつい口走った言葉に、ルイユが答えた。


 「コーリゼから剣を奪わせるつもりだった。街中なら剣を守るより住民を守る事になるから。……でも外へ出て来てしまった。だから殺す事にしたのよね? 主様の判断で、彼を助けに向かってよかったわ。そこで、やっと私も気がついた」


 「まさか、剣をそのまま返すとは思わなかった」


 「どういう状況か聞きたかったので。自らあなたが出て来てくれて、探す手間が省けたわ」


 「随分と強気だな? 剣は私の手中だと言うのに」


 その言葉に、ルイユはニッコリと微笑んで返すだけ。


 《主様。私は接近戦に持ち込みます。ですので、私の背後から私ごと彼女を刺して下さい》


 え……?

 言っている意味がわからない!

 

 「行きますよ!」


 そう言ってルイユは、魔女に向かって行く。


 「え! ちょっとルイユ!」


 僕が叫ぶもルイユは、剣を持つ魔女に突き進んでいく。本当に接近戦をするつもりらしい。

 10歳の女の子に剣を刺すのさえためらいがあるのに、ルイユごと刺せってどういう事? 無理に決まってる!

 きっとちゃんとした策なんだろうけど、僕には無理な作戦だよ。


 「ルイユ、無理だから!」


 「クテュール! ルイユ!」


 僕が叫んだ時、驚く事にイラーノが現れた!

 どうしてここがわかったんだ。それよりどうやって……。

 イラーノの後ろには、アベガルさんがいた。

 そっか。あの空飛ぶ馬で来たんだ。こんな時に、アベガルさんまで。どうしよう。


 「アベガル!?」


 ルイユも驚いている。


 「ふん。余裕がないのによそ見か?」


 剣がルイユを貫いた!


 「「ルイユ!」」


 僕とイラーノの声が重なる。


 《チャンスです……ぬしさ……ま……》


 チャンスじゃないだろう!

 僕は、走ってルイユに近づく。勿論、刺す為じゃない。血の復活をする為だ。

 ルイユは、魔女にしがみついていた。けど力尽き崩れ落ちその場に倒れた!


 「ルイユ―!」


 「貸せ!」


 魔女がとどめを刺そうと剣を振り上げた。僕の足じゃ間に合わないと思った時、コーリゼさんが僕が持っていた剣を奪うと、魔女が振り下ろした剣を受け止めた!

 僕は、安堵する。


 「バカだな。数分命が伸びただけの事」


 魔女が持つ剣には、ルイユの血が滴っていて、その血は受け止めた剣も赤く染めて行く。

 刺していた剣を抜いた為、ルイユの周りには大量の血だまりが出来ていた。


 「ルイユ! お願い死なないで!」


 泣きながら僕は、ルイユに触れた。

 お願い間に合って!

 ルイユが光に包まれると、血だまりは消えていた。


 「なんだ?」


 魔女は、驚いて僕達を見ている。

 いや、全員見ていた。

 イラーノは目にした事があるが、血が消えた事に気がついていなかった。でも今回は、気がついたと思う。


 「この!」


 「コーリゼ!」


 魔女は、コーリゼさんを斬ると、蹴り飛ばした! コーリゼさんは、遠くまで吹っ飛ぶ。10歳の女の子とは思えない力だ。

 アベガルさんもただ事じゃないと思ったらしく、剣を抜いてこっちへ向かって来る。イラーノは、コーリゼさんへ向かう。ヒールをする為だろう。


 「死ね!」


 アベガルさんが僕達に向かって来るけど、間に合わない!

 魔女が振り上げた剣が、僕達に振り下ろされた! 僕は咄嗟にルイユを守る為に、彼女に覆いかぶさる。

 ごめんね、ルイユ。君の願いは叶わないかもしれない……。

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