◆217◆光る剣
がつっと鈍い音が聞こえた。でも、僕の背中からじゃない。
顔を上げると、魔女が吹っ飛んでいた。そして、ルイユの伸びた足が見える。ルイユが、魔女を蹴り飛ばしたみたい。
「ありがとうございます。主様」
「よかった……」
「おいおい。これはどういう事だ?」
吹き飛んだ魔女を見た後に、コーリゼさんをヒールするイラーノの二人の姿を見てアベガルさんが問う。
「悪いですが、今、あなたの相手をしている余裕はありません」
「あの少女が魔女なんだよ」
「あぁ、コーリゼが言っていた魔女? あんなに幼い子供だったのか!?」
「あの少女は器です。コーリゼの妹のようです」
「なんだそれは? 意味がわからん」
「私達が以前に封印した魂が彼女の中に入っています。……悪いですが、この話は後で」
むくっと、魔女が上半身を起こした。
「思いっきり油断した。まさかあの状態で、治癒して治すとはな。なるほど、その為に連れて来ていたわけか……」
その言葉にルイユは、僕の前に立った。
魔女は、血の復活を知らない!?
どうやら魔女は、僕がヒールしたと思ったみたいだ。
「ねえ……この剣、光ってない?」
イラーノの声に全員振り向いた。
治癒で傷を癒されたコーリゼさんは、まだ眠っていた。その手には、光る剣が握られている。
どういう事?
「それを主様に!」
「イラーノ!」
呼ばれたイラーノは振り返った。けど、彼を呼んだのは、僕でもアベガルさんでもない。魔女だった。
「目を見てはダメです!」
ハッとしたようにルイユは、イラーノに叫ぶ。
「さあ、その剣を持ってきなさい」
魔女の言葉に従うかのようにイラーノは、コーリゼさんが握る剣を手に取って立ち上がった。
まさかと思うけど、魔女がイラーノを操っているの?
イラーノは、エルフとのハーフ。魔力が高い。
ルイユとアベガルさんが身構える。
魔女が、剣が入れ替わっていた事に気がついてしまった。
「イラーノ! 僕の声が聞こえる? それを魔女に渡してはダメだ!」
声が聞こえるかもしれないと叫んだけど、ゆっくりと魔女に歩いて行く。
たぶん、イラーノは魔女まではたどり着けない。そんな事をルイユがさせないからだ。ルイユの手によって、イラーノは殺される!
「灰になれ!」
その言葉に魔女に振り向けば、魔法をイラーノに放とうとしている所だった! 最初から剣を奪う気はなかったんだ!
もうルイユが動いても止められない!
「受け取って!」
「サンダーバインド!」
無我夢中に、僕は咄嗟に思い出した魔法を叫んでいた!
魔女にバチバチと電撃がしばりついて、彼女の顔が苦痛に歪んだ。
そして、カラランとイラーノが放り投げた剣が、僕達の足元に転がって来た。
「あ、ありがとう。クテュール」
へなへなとイラーノはその場に座り込む。
魔女に操られていたフリをしていたの?
僕もホッと安堵する。
さっきルイユが言った、僕に渡してと言った台詞で僕に必要なんだと思ったんだ。だから操られたフリをして、僕に渡そうとした。
「主様。お願いします」
ルイユは、足元に転がって来た剣を拾って言った。
僕は、魔法で縛られた魔女を見る。10歳の少女だ。しかも、コーリゼさんの妹。今やらないと、僕達全員殺されるだろう。
震える手で、剣を受け取る。淡く光っていた剣が、光を増した。
なんでこんなに弱い僕がチュトラリーになんてなったんだ。魔女だとわかっていても人の姿をしていたら刺すのが怖いのに。
意気地なしだ僕は……。
「おい。本当に刺す気か?」
「邪魔するなら私が相手しますよ?」
アベガルさんが言うと、ルイユがキッとアベガルさんを睨んで言った。
「今の状況を見て、アベガルさんは誰を信じるの?」
そう問いかけたのは、イラーノだ。
「誰って……コーリゼ?」
気がつくと目を覚ましたコーリゼさんが、僕の横に来ていた。
「大丈夫。俺も手伝うから」
コーリゼさんが後ろから、剣を握る僕の手の上に手をかぶせた。
その行為に、アベガルさんが驚く。
自分の妹を一緒に刺すという事だからだ。
「少しだけ待ってください」
ルイユがそう言って、剣の刃を握った!
そうすると、驚く事に剣は光を更に増す。どうやらルイユの血に反応しているみたい。
そっか。ルイユの血が条件だったんだ。
魔女が振り下ろした剣をこの剣で受け止めて、ルイユの血がこの剣にも流れて来たから……。
「お願いします。主様。この世界を救って下さい」
「せ、世界……?」
そう言うとルイユは、こくんと頷いた。
魔女って、この世界を滅ぼそうとした相手なの?
そんな相手に僕がとどめを刺しちゃっていいの!?
ギュッと、コーリゼさんが手に力を込めて来た。
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